2012年3月11日日曜日

震災1年:相次ぐ日本国債格下げ、「暴落ストーリー」再燃の不安

[東京 9日 ロイター] 東日本大震災以降、内外の格付機関が相次いで日本国債を格下げしている。巨額な政府債務による財政の硬直性、ねじれ国会による政治の停滞に、震災による政治・経済面での環境変化が加わり、日本国債の信用力への評価がさらに厳しくなっているためだ。

国内勢の分厚い需要に支えられ、長期金利は1%割れの低水準で推移しているが、海外ファンド勢が早期の経常赤字化などを手掛かりに、再び国債暴落ストーリーを描き始めたとの指摘も出ている。

<巨大地震後に格上げされたインドネシア>

世界でも有数の地震多発地帯であるインドネシアのスマトラ島。2004年にマグニチュード(M)9を超える大地震と巨大津波で多くの死傷者を出した。その後もM7─9規模の地震が頻発、今年1月にはM7.3の地震が発生したが、ムーディーズはその1週間後にインドネシアの信用格付けを「Ba1」から投資適格等級の「Baa3」に引き上げた。

インドネシアの投資適格等級への格付け復帰は1997年12月以来約15年ぶり。好調な個人消費と輸出に支えられ、年5%後半から6%台の安定した経済成長が持続。格付けが投資適格水準に引き上げられたことで、先進国中心に海外からの資金流入が加速している。政治的な安定性も増しており「経済規模が大きいBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国に引けを取らない成長期待が財政の弾力性を確保する大きな要因」(国内金融機関)となっている。

一方、日本国債は昨年の震災後、信用格付けや見通しの引き下げが相次いだ。大手海外格付機関のスタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(S&P)が4月にアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に変更。ムーディーズ・インベスターズ・サービスは8月に「Aa3」とシングルA格まで一歩手前の水準に引き下げた。「身内」であるはずの国内最大手の格付投資情報センター(R&I)も12月、最上級の「AAA」から「AA+」に引き下げた。

同じ地震大国のインドネシアと好対照な動きを示す日本の信用格付け。その違いは財政や経済の弾力性だ。日本の国と地方と合わせた政府債務は国内総生産(GDP)の2倍となる1000兆円を突破。2012年度予算では歳入の約半分を国債でまかない、国債利払い費と償還費で歳出の24%を占める歪(いびつ)な構造となった。

財政の弾力性が低下している要因には、政権基盤の脆弱さがもたらす政策遂行能力の欠如もある。いわゆる衆参ねじれの構造の弊害だ。ねじれ構造下では、財政再建の両輪とされる歳出削減と歳入確保について「国民に強い負担を強いるような難しい政策を打ち出すことは困難」(S&P・ソブリンアナリストの小川隆平氏)。「東日本大震災がなくても日本国債の格下げは免れなかったのではないか」とバークレイズ・キャピタル証券・チーフ公的セクター・クレジット・アナリストの江夏あかね氏は指摘する。

<復興関連でのバラマキ予算、消費増税の先行きに暗雲>

震災が財政の弾力性をさらに縮めているとの見方もある。政府は復興予算として当初の5年間で19兆円を投入する予定だが、補正や本予算も含めて、将来の成長力には結びつかないようなバラマキも目立つ。

エコポイントに名を変えた補助金行政の復活ではないか──。2011年度第3次補正予算に1446億円計上された「復興支援・住宅エコポイント制度」について、ある国内証券の関係者は厳しい評価を下す。同制度はエコ住宅の新築またはエコリフォームをした場合にポイントを発行。ポイントのうち半分以上を被災地の特産品や商品券、寄付などに交換ができる仕組みだ。

都内に本社を置く金融関係の企業に勤める40代の男性。最近購入した中古住宅に数百万円かけてリフォームを施した。エコポイントが付与されたが「東北に縁もゆかりもない自分にとって、交換したいと思える商品が少ない」とぼやく。エコポイント制度は一時的に消費を喚起するが、将来の需要を前倒しするため、制度終了後は急速に需要がしぼむ。市場では「エコポイントは政策として経済の乗数効果を得られにくい。被災地を特区に指定して消費税軽減などの税制優遇で需要を喚起した方がより効果的だったのではないか」(国内証券)と評価は低い。

来年度予算案には整備新幹線の未着工3区間の建設費用も盛り込まれたが、「なぜ今、国費で旧来型の新幹線を着工しなければならないのか」(同)といった疑問を抱く関係者も少なくない。今回の整備新幹線着工に経済合理性が議論された形跡は見られず「旧態依然とした公共投資で建設セクターに税金を流し込まないと景気が浮揚しない構図」(外資系証券)に、市場では構造改革に逆行した政策との批判もある。

ムーディーズは先月24日、消費税法案の成立が難航した場合、日本の信用力を支えるプラスとマイナスの両面を勘案した上で、現在「安定的」となっている日本国債格付け見通しを「ネガティブ」に変更する可能性を示唆している。消費増税に野党の協力が得られないなか、与党からも反対の声が出ている現状で、世論の後押しは法案の成立に欠かせない。しかし、消費増税法案の提出前にこうしたバラマキともとられる予算を計上したことで、消費税引き上げへの理解は遠のいた感がある。

<海外勢の日本国債暴落ストーリー、早期の経常赤字と巨大な財政赤字>

ヘッジファンドが日本国債暴落ストーリーを描き始めた──メリルリンチ日本証券・チーフ債券ストラテジストの藤田昇悟氏は語る。暴落ストーリーを口にするタカ派なファンド勢はごく少数だが、日本の早期経常赤字化や巨大な財政赤字を手掛かりに「日本のギリシャ化」を想定し、日本国債売りと円売りのポジションを構築しているという。

国債暴落論は過去に何度となく浮上したが実現したことはない。そこに立ちはだかるのは、国債保有比率で9割超を占める国内勢の分厚い需要だ。しかし、その国内勢の資金を支えている構造も震災後、揺らぎ始めている。

2011年の貿易収支が31年ぶりの赤字に転落、安定感があった国債市場に動揺が走った。輸出の停滞に加えて、原発稼働率の大幅な低下による代替エネルギー燃料の輸入拡大が主な要因だが、貿易赤字が膨らみ続け、経常赤字が恒常化すれば、貯蓄率が低下し、国内勢主体の国債消化構造が揺らぐとの懸念がくすぶる。

8日に発表された1月単月ベースの経常収支は4373億円の赤字と2009年1月を上回る過去最大の赤字を記録した。SMBC日興証券・チーフストラテジストの末澤豪憲氏は、季節的な要因や中国春節などの特殊要因が重なったためで2月以降は黒字に戻ると予想するが、「原発再稼働に高いハードルがあり、黒字額は低水準にとどまる」との見方を示す。

各国中銀が供給する過剰な流動性は、欧州信用不安やデフレ圧力を和らげる一方、投機マネーが原油などの商品相場に流れ、世界的なインフレを招く副作用がつきまとう。ある国内金融機関の運用担当者は「原油高に円安が加わるとエネルギーコスト増は避けられない。製造業を中心とした国内企業の経営体力を奪うと同時に、経常収支赤字化の時期が想定より早まるのではないか」と危惧する。

メリルリンチ日本証券の藤田氏は「早ければ2014―2015年にも経常収支が赤字に転落するとの見方もあるが、貯蓄率が低下するにつれ個人の消費行動も保守的になる。経常赤字化の時期は後ずれするだろうが、経常赤字に転落すれば海外勢からリスクプレミアムが要求される」と警戒感を示している。

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