総務省で2日、「周波数オークションに関する懇談会」第一回会合が開催された。昨年総務省で進められた会合の中で、オークション制度について検討すべきと示されたことを受け、今回議論の場が設けられた。3月~5月にかけて、事業者へのヒアリングなどを行い、6月に論点を整理して、その後、とりまとめに向けて、さらに議論が進められる見込み。
冒頭、挨拶を行った平岡秀夫総務副大臣は、今回の会合が昨年12月にとりまとめられた「光の道」構想のタスクフォースによる基本方針の中で、周波数オークションについても議論を進めるとしたことにあるとして、「今年中に結論を得るとしており、その方針を踏まえて本会合が発足した」と述べた。
政府が2015年頃を目処に全世帯でブロードバンド環境を利用できる環境の実現を目指す上で、ワイヤレスブロードバンドは重要な位置にあるとして、周波数オークションがその一助になるとしたほか、オークション制度について「新たな財源とする声もあるが、国民の共有財産である電波をいかに活用するか、そのためにオークションが必要ではないかという点を問題の根源として出発したい。政治的な判断が必要な場面では、政治家が政治的に判断したい。間違いない判断ができるよう、どのような課題・問題があり、どう考えられるのか、尽力をお願いしたい」と語った。
本懇談会の座長は早稲田大学教授の三友仁志氏が、座長代理は上智大学教授の服部武氏が務める。
■ 周波数オークション、OECD諸国では日本は後発組
周波数オークションは、携帯電話などで用いられる電波の帯域を割り当てる際、競売形式にして、より高い値付けをした事業者に割り当てるというもの。現在日本では「比較審査方式」を採用しており、複数の申請者が存在すれば優劣を比較して、より優れているほうを選定する。
総務省が今回示した資料によれば、OECD(経済協力開発機構、経済的に発展した30カ国が加盟する国際機関)加盟国の多くで周波数オークション制度が導入済という。この資料では、チリやイスラエルなど、2009年以降にOECDに加盟した国の動向は不明となっているが、オークションを導入していないのは日本のほか、アイスランド、スロバキアで、制度はあるものの実際に事例がないのは韓国、フランス、スペイン、ハンガリー、ポーランド、ルクセンブルクとなっている。また、OECD加盟国以外では、インド、ブラジル、シンガポール、台湾でオークションが実施されているとのこと。
海外の事例として、豊富な実績を持つ米国の状況も紹介された。米国では1981年以前は比較審査方式だったが、審査に時間をとられ、他の処理が進まない状況に陥ったことから無差別選択方式(くじ引き)を導入した。しかし、能力がない事業者、投機目的の事業者の存在が課題となり、1993年、周波数オークション制度が導入された。それ以来、75回のオークションが実施され、これまでの合計落札額は約8兆4000億円となっている。
最も大規模かつ直近の事例としては、2008年に行われた、アナログテレビ跡地の帯域である700MHz帯のオークションが挙げられる。このときには、帯域をA~Eまでに分け、たとえばAの帯域(698~704MHz、728~734MHz、6MHz幅×2)は全国176エリアに、Dの帯域(758~763MHz、788~793MHz、5MHz幅×2)は全国で1エリアにして、競売にかけた。細かなエリアに分割された帯域は、中小事業者でも参入しやすくしたもので、より大まかに分けた帯域は全国展開する事業者の参入を念頭にしたものだった。帯域によっては「ユーザーが選択した端末やアプリを利用できるようにするオープンプラットフォームの帯域」「警察・消防など公共・安全ユーザーと民間で共用し、非常時には公共安全業務を優先する帯域」といった条件が付けられた。このオークションでにおける合計落札価格は約1兆8400億円(約190億ドル)にのぼった。
このほかの国では、英国や米国において2000年に3G向け帯域が高額で落札されたことなどが紹介された。
■ 論点について
第一回会合ということで、今後議題にすべき論点についての整理も行われた。総務省側から挙げられた論点案は以下の通り。
導入目的
払込金の法的性格
収入の使途
対象範囲
制度設計
二次取引(転売)
電波利用料制度との関係
免許制度との関係
その他(外国資本の位置付け)
「導入目的」とは、そもそもなぜオークションを導入するのか、ということで、次いで「払込金の法的性格」は「事業者にとって新たな負担となる落札額を、なぜ支払わなければならないか」という理由をいかに考えるとか、ということになる。
こうした総務省側の説明を踏まえ、懇談会構成員からも1人1人、差分となる部分や全体的な考え方が紹介された。なお構成員のうち、東芝研究開発センターの土井美和子氏、東京大学教授の森川博之氏は今回欠席している。
日本総合研究所法務部長の大谷和子氏は、周波数オークション制度の目的について「誰のため、何のための議論かが最初の出発点。財源確保は副次的なものと考え、周波数割当の透明性確保が第一義になるべき」とした。また、これまで日本でオークション制度が取り入れられなかった理由、従来の電波利用料がその低コストを事業者がどう活かしたのかといった点を分析、検討すべきとした。
大阪大学名誉教授の鬼木 甫氏は、周波数オークション制度の導入は、短期的にショックがあるものの長期的にメリットがあるとし、「いったん取り入れた国のうち、制度を辞めた国はないだろう。日本はOECD諸国では周波数オークション制度を最後発で採用することになるが、遅れているのは悪いことではなく、他の事例を学べる」と述べ、先に周波数オークション制度を導入した国々の事例を徹底的に研究すべきとした。
上智大学教授の服部 武氏は、大谷氏と同じく周波数オークションの導入目的は免許手続きの透明性確保としたほか、電波利用料が干渉対策などの技術開発に有効活用されており、周波数オークション制度の導入で大幅に下がれば次の技術開発に向けた資源がなくなるため、電波利用料を確保した上でのオークション導入が重要とした。さらに周波数帯によってはより高い技術力が必要な場合もあることなどから、一律なオークション制度ではなく、ニーズの高い“プレミアムバンド”とその他の帯域に考慮した制度を求めた。また、技術開発を促進する制度の必要性も指摘し、自由化によって、事業者のやる気が削がれる状況に陥るリスクを避けるべきとした。
電波利用料制度に関する総務省のワーキンググループにも参画していたという名古屋大学准教授の林 秀弥氏は、国民共有の財産である電波をいかに活用するか、という視点で周波数オークション制度について議論すべきとした。また、外国資本の参入についても懸念を示し、「米国では無線に関して外国資本の参入は厳しい規制がある。安全保障の視点かもしれないし、(オークション制度の議論の本筋に)付随的かもしれないが関心がある」とした。
インターネット総合研究所代表取締役所長の藤原 洋氏は、通信量が過去10年で飛躍的に増大し、今後のインターネットはさらなる大容量化とワイヤレス化が進むと分析した。またフランスや韓国で、オークション制度が導入されているものの、実行には慎重とされるとした上で、その要因の分析が今後役立つとする。そうした他国の状況を踏まえ、日本が今後導入する周波数オークション制度は、世界の規範を目指した制度になれば、と述べていた。
公共調達分野に携わるという野村総合研究所未来創発センター長の山田 澤明氏は、公共調達で示されている指針が周波数オークション制度の参考になる部分があるとする。1つは公平性や透明性を確保した上での事業者の選定、2つ目が安価なことだけではなく品質とコストのバランスを確保すること、3つ目がエンドユーザーが利用するときに高い満足度が得られること、4つ目がサプライサイド(供給者、オークション制度では入札者)も適正な収益を得て健全な発展ができることという。
A.T.カーニー プリンシパルの吉川 尚宏氏は、台湾でのオークション制度導入にアドバイザーとして携わった経験があるとして、「周波数オークションは、よく不動産の定期借地権にたとえられるが、既に利用されている電波を早く他事業者に移行させるという手段として、免許更新時期を早める権利を入れる必要があるのではないか」とコメント。さらにオークションで入札する際、落札金額で競うのか、「その周波数利用で得た売上の何%を支払う」というパラメーターで競うのか、といった点も議論すべきとした。MVNOへの接続義務の有無、誰も使っていない帯域のオークションと、周波数再編時のオークションをどうするか、といった点も指摘した。
このほか、現在国会に提出されている電波法改正案で、既に利用されている帯域の移行コスト負担でオークション制度の考え方を取り入れた制度を創設する、としている点については、既に決定した内容として本会合では議論の対象外となったが、今後説明が行われることとなった。
今回、総務省側と構成員側から一定の論点が示された一方で、広く論点を募集することも本会合で承認され、近日、総務省から論点案そのものの募集開始が報道発表されることになった。
■ URL
会合案内
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/syuha/
0 件のコメント:
コメントを投稿