1月12日(ブルームバーグ):ヘッジファンドマネジャーのヒュー・ヘンドリー氏は将来を憂えている。2010年に、競合するファンドの8割強を運用パフォーマンスで上回ったものの、自身を虐げられた少数派の一人だとして嘆く。そして、ヘッジファンド規制への脅威を、サルコジ仏大統領が昨年夏にフランスから追い出した少数民族ロマと重ねる。
ヘンドリー氏(41)はヘッジファンド運用会社エクレクティカ・アセット・マネジメントを率いる。襟の開いたグレーのシャツにライトブルーの麻のジャケットを着た同氏は、ロンドンにある同社で「社会のムードは厳しくなり、変化し、悪くなりつつある。ヘッジファンド業界だけではない。極めて洗練され、これまで自由主義を掲げていた社会でもそうだ」と語った。「ヘッジファンドは少数派だ。そのほかの少数派は誰だと思う。外国から来た人間だ」と指摘した。
ヘンドリー氏は身ぶりを交えながら「サルコジ大統領はロマ、つまり少数派いじめをした。これは一つの動きの始まりだ。放置すれば極めて厄介なことになりかねない」と訴えた。ブルームバーグ・マーケッツ誌2月号が報じている。
挑発的な発言と攻撃的な姿勢はヘンドリー氏の特徴だ。同氏は、欧米の金融システムが崩壊に近い状況になった際、金利オプション取引で利益を上げたことを誇りに思っている。危機に乗じた同氏の投資行動は、ヘッジファンド規制に向けた取り組みを進めるデンマークのラスムセン元首相との公の場での論争につながった。
規制派を一蹴
「ヘンドリーさん、退散したらどうか」。ラスムセン元首相は、10年3月に英国のテレビで行われたギリシャ債務危機に関する討論でこう呼び掛けた。「われわれは、あなたが一般市民を犠牲にするのを今後阻止していくつもりだ」と付け加えた。
ヘンドリー氏はこれに対し、元首相は欧州の「シャンパン・ソーシャリスト(裕福な社会主義者)」の1人で、成功した者を罰することを固く決めている人物と一蹴。「彼らは恐れている。ギリシャが直面している問題が今や自分たちの対応力を超えて大きくなっているからだ」と切り返した。ラスムセン元首相は欧州社会党の党首を務めている。
ヘンドリー氏のエクレクティカ・ファンドは、世界のマクロ経済見通しに基づく投資戦略を取る。08年には、S&P500種株価指数が38.5%下落する中でプラス31.2%のリターンを上げ注目を集めた。ブルームバーグ・マーケッツ誌のグローバル・マクロ・ヘッジファンドのランキング調査によると、ヘンドリー氏のファンドは昨年10月31日までの1年間で9.6%上昇。競合するファンドのうちの83%よりも高いパフォーマンスを上げた。02年の設定から10年11月30日までの上昇率は119.3%。運用資産額は2億3300万ドル(約194億円)。
「中国売り」
そして今、ヘンドリー氏は投資戦略の焦点をより大きな標的に向けている。それが中国だ。不動産市場で投機的な取引が横行することで同国の成長が損なわれ、アジア全域やその他地域にその衝撃が広がるとみる。世界2位の規模を持つ中国の国内総生産(GDP)が国内の富の創造と釣り合っていないことが問題だと指摘。同氏の悲観シナリオによれば、中国製品に対する海外需要が弱まることで、中国の株式と不動産の下げが一段と激しくなり、世界的なデフレと低成長が長期化する。
ヘンドリー氏の「中国売り」の手法はちょっと変わっている。中国の建設ブームの恩恵を受けてきたJFEホールディングスや新日本製鉄など日本企業の社債保証コストが割安だとの判断でクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を購入。新日鉄債のCDSスプレッドは、今年1月7日時点で57.25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と、09年2月17日の215bpの4分の1程度となっている。
これら社債のCDSスプレッドが09年の過去最高水準に並ぶか、それを上回れば、自身のファンドは最大50%上昇する可能性があると、同氏は説明した。
出発点
ヘンドリー氏は、09年春にビデオカメラを持って中国の主要都市を巡り、中国に対する悲観的な見方を強めた。空室の目立つ超高層ビル群を指さした同氏のリポートは、ユーチューブで10万回近く視聴された。
同氏は、スコットランドのグラスゴー南部、悪名高いゴーバルズ地区に近い場所に生まれた。父はトラック運転手で、母は秘書として働いていた。育ちの悪さを振り払うため会計士を目指し、市内にあるストラスクライド大学で学んだ。
大学卒業後すぐに、エディンバラにある年金運用会社ベイリー・ギフォード・アンド・カンパニーに加わり、アナリストとして8年間勤務。その後、クレディ・スイス・グループの株式アナリストの職を得て1998年にロンドンに移った。そしてその1年後、クリスピン・オデイ氏と出会う。当時、オデイ氏は自らのヘッジファンドをロンドンで運営していた。
あまのじゃく
2人は実にちぐはぐな組み合わせだった。細い縦じまの服を着たオデイ氏は、チャーチル元英首相も学んだパブリックスクール、ハロー校から名門オックスフォード大学のクライストチャーチ・カレッジに進んだ人物。ヘンドリー氏は公立学校で教育を受けた。ネクタイを嫌い、しばしばカーキ色の服を着る。しかし2人は共通の理念を見いだした。それは多数派とは逆の動きをしてもうけること。
「彼は、私に資金の運用方法を教えてくれた」とヘンドリー氏はオデイ氏について話す。「それ以上に、あまのじゃくである方法を教わった。あまのじゃくな人間とはつまり好奇心の塊ということで、どのように変化を生かし思考するかであり、資金運用には極めて必要なことだ」と指摘した。02年、同氏は副業としてエクレクティカ・ヘッジファンドを設立。05年にオデイ氏から離れた。
ヘンドリー氏は昨年9月のインタビューで「この5年間、独りで働いてきた。誰も自分と一緒に働くことを選ばないだろう」と語っている。
15年より前か
ヘンドリー氏の日本に対する賭けは、向こう2-5年を対象としている。これは中国市場の大崩れが15年より前に起きるとみていることを示唆する。
ヘンドリー氏は、損失が際限なく膨らむ可能性があるとして、中国の金融機関に直接投資するのを避けている。同氏が信用市場でのオプション取引を好むのは、損失がプレミアムに限定されるからだ。
ただユーロが現在抱えている問題で、今から利益を得ようとする投資家に加わる意思はないという。「ユーロの問題はよく知られているため、保証コストが非常に高い。アジアのそうしたコストは80-90%割安だ」と語る。
そして、その投資戦略がうまくいけば、ヘンドリー氏はまた虎視眈々(たんたん)と混迷へと向かう別の場所に関心を向け始めるだろう。そう、同氏が利益を得る機会が転がっている場所に、だ。
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