12月20日(ブルームバーグ):ジェームズ・バートン氏が米最大の公的年金、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)の最高経営責任者(CEO)だった2002年当時、1428億ドル(現在のレートで約12兆円)に上る運用資産のうち金への投資は全くなかった。その理由は、金が20年にわたって弱気相場となっていたからだ。
バートン氏はカルパースを辞職して程なく、それまで聞いたこともなかった鉱山業界の団体から仕事の申し出を受けてロンドンに飛んだ。02年6月初めのその日、雨でびしょびしょにぬかるんだ英国のゴルフコースをレンタルしたゴルフシューズで歩きながら、現実離れしたあるアイデアを聞かされた。それは、金を投資商品として一般の人々に売るというものだった。
業界団体ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の当時の新会長、クリストファー・トンプソン氏はその日、バートン氏に対し、長期にわたって避けていた金を投資家が買う時機が到来していると語った。鍵となるのは金の延べ棒をニューヨーク証券取引所で取引できる証券に分割する事だという。トンプソン氏はバートン氏にその取り組みを主導してほしいと持ち掛けた。バートン氏は少なからず機関投資家とのつながりがあったからだ。当時、金の現物価格は1オンス=約328ドルだった。
当時、南アフリカ共和国のゴールド・フィールズの会長でもあったトンプソン氏(62)は「簡単な方法が見つけられれば、一般の投資家が大量の金を購入する市場があると確信していた」と振り返る。
1431.25ドル
トンプソン氏は17番ホールのマッチプレーでバートン氏に勝ち、WGCのCEO就任を納得させた。次なる2人の取り組みは、少なくともここ90年間で最長の金の上昇相場において鉱山業界が果たした役割を示している。金相場は今月7日、過去最高値の1オンス=1431.25ドルに達した。
この2人のリーダーシップの下、WGCが設定した信託は金に裏付けされた上場投資信託(ETF)として米証券取引委員会(SEC)に承認された。WGCにはカナダのバリック・ゴールドや米ニューモント・マイニングなどの産金会社が加盟している。これにより投資家はコストや現物受け取りの問題を抱えることなく金にアクセスすることができるようになった。
金ETF「SPDRゴールド・トラスト」の保有量は現在、1299トン、約570億ドル相当と、スイスの中央銀行の金準備を上回る。金への投資家には、ノートルダム大学やテキサス州教職員退職年金基金のほか、ジョン・ポールソン氏率いるポールソン、ローレンス・フィンク氏が指揮を執るブラックロック、ジョージ・ソロス氏が運営するソロス・ファンド・マネジメントなどヘッジファンドや資産運用の大御所の企業が名を連ねる。
10大ETF
世界の10大ETFの金保有量は計2113トンと、米国やドイツ、イタリア、フランスを除くどの国の金準備よりも多い。
金連動型ETFの人気が金相場の前例のない上昇をけん引し、米ゴールドマン・サックス・グループのアナリストら一部の市場関係者はさらに値上がりすると予想している。
ソロス氏はスイスのダボスで今年1月開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、金相場を「究極の資産バブル」と表現した。この時の金価格は1087.10ドルだった。ソロス氏の金連動型ETFの保有高は9月30日時点で6億6480万ドル相当に上った。
ブルームバーグが集計したデータによると、金値上がりは、過去10年間に崩壊した3つのバブルの動きに似ている。それは、2000年のナスダック総合指数のバブル、05-06年の米住宅市場のバブル、そして08年の原油相場高騰だ。
WGCの米国・投資担当マネジングディレクター、ジェーソン・トゥーサン氏は14日のインタビューで、金相場の上昇ペースは最近のバブルのようなものではないと主張したWGCの9月のリポートを引用した。リポートによると、株価指数や原油など他の資産と比較すると金相場の上昇は長期的平均に準じている。
放物線状の値上がり
ボストン大学の金融・経済学部の主任講師、マーク・ウィリアムズ氏は、資産価格が現在の金のように放物線状の上昇を示す場合、最終的には暴落する運命にあることを歴史が示していると指摘。そして、そのような状況ではほとんど常に、個人など小口投資家が資金を引き揚げるのが遅過ぎるとの見方を示した。
資産運用で最大手のブラックロックによると、ETFの金のうち最大半分を個人投資家が保有している。ウィリアムズ氏は「投資を引き揚げる過程で弱者がドアノブに頭をぶつけることになるだろう」と警鐘を鳴らした。
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