2010年11月3日水曜日

「我々は人民元問題で対抗が可能だ」

英フィナンシャル・タイムズ紙 2010年 10/4付
フレッド・バーグステン(ピーターソン国際経済研究所所長)
We can fight fire with fire on the renminbi
By Fred Bergsten

中国は人民元の操作を継続しており、今では少なくとも10パーセントほど割安な水準になっている。日本は円安のために大規模な市場介入を再開した。スイスは最近になってスイス・フランの上昇を防ぐために1000億ドル以上を拠出している。三カ国とも、またこれら以外の諸国も、既に大規模な貿易赤字を計上し、巨額の外貨準備を抱えているのだが、それにもかかわらず、輸出を通じた経済成長を刺激するために自国通貨の為替レートを弱くしようと考えているのだ。

現状、一部の赤字国は(顕著なのがブラジルだ)自国の競争力を守るためにこうした政府介入を真似ざるを得ないと感じている(彼らもやはり巨額の外貨準備を保有しているとはいえ)。実質的に全ての国が(EUと米国も含めて)、自国通貨の上昇を回避しようとしている。手短に言うと、中国による競争的な通貨切り下げがグローバル経済全体に影響を及ぼしているのだ。

このことは、今日の国際金融システムにおける紛れもないギャップを顕在化させている。つまり、収支黒字国に対する実効的な規律が欠落しているのだ。調整の圧力はいずれも収支赤字国の肩に伸し掛かっており、結果的に生来的なデフレに係るバイアスにつながっている(これはグローバルな景気後退局面において特に深刻なものだ)。IMFは世界大恐慌を悪化させた競争的な通貨切り下げを阻止する目的で設立されたのだが、これまでのところ、それを実行するための手段は一切提供したことがない。

こうした欠陥にとりわけ苦しんでいるのが米国である。他の諸国は米ドルの為替レートを上げ、自国通貨の為替レートを下げるために介入を行うことで米ドルの為替レートを定めることが可能だ。実際、中国は過去五年間にわたって一日当たり平均10億ドルの米ドルを購入することで、これを実践している。IMFのガイドラインは加盟国に「他の諸国の利益(各国がその国の通貨に介入を行っている国の利益を含む)」を考慮するよう要請している。しかし、上記のような政府介入でこれが行われているとの兆候は皆無だ。ユーロの国際的な利用性が増すに連れ、欧州も徐々に同様の問題に直面していくことになるだろう。一方、日本は既に中国による円の操作に苦情を申し立てている。

もっとも、こうしたギャップは、新たな政策手段の導入によって埋めることが可能だ。具体的には相殺的な為替介入である。中国や日本が自国通貨を大幅に割安な水準に維持するために米ドル買いの介入を行った時、米国は抵抗するために同額の米ドルを売るべきなのだ。IMFは必要な場合にはこうした介入の正当性を認め、意図的な自国通貨安に関与して自らの義務に違反している諸国を律するべきである。

違法な輸出補助金に対する相殺関税という伝統的な貿易政策上のツールは有効なモデルである。WTO加盟国が補助金を付与しないとのコミットメントに違反した場合、輸入国側は相殺関税を課すことが可能だ。時として濫用に陥りやすいものの、この手続きはかなり実効的に機能している。先週、米下院は輸出補助金としての意図的な通貨切り下げ(これが事実なのは確実だ)に対処し、相殺関税の正当性を認める法案を可決した。しかしながら、通貨の不均衡は或る国の対外輸出全体(単に特定のセクターだけではない)と、そして輸入全体にも、影響を与えているのだ。したがって、相殺関税よりも通貨面での対応の方が適切なのである。

当然、米国も数々の局面で米ドルのために外国通貨を購入してきた。2000年にはユーロを、1998年には円を購入している。当時、こうした通貨は余りにも割安になっているという点で幅広い合意が存在していた。最も重要な介入が行われたのは1985~87年である。プラザ合意の下、米ドルの割高を是正するために、米国は独マルクと円を購入したのだ。しかし、こうした外国通貨の購入は関係国との協調とともに実施された。その一方、相殺的な為替介入は意図的に自国通貨の為替レートを切り下げている国を罰することになるだろう。このため、対象国は、この新たなツールが広く合意されたシステミックな目的を推進するために利用されていないという説得力のある主張を行うことが出来ると考える場合には、IMFに訴えることが出来るようにしておくべきである。

中国のケースでは、技術的な問題も生じるだろう。人民元は資本フローに対して兌換不能であり、このため、人民元の先物取引や債務証書として代替される物が見出される必要がある。このことは恐らく対抗介入のスコープ(範囲)を中国による米ドル買いのマグニチュードよりも相当に低い程度に制限することになるだろう。しかし、そのメッセージは間違えようがない。民間資本は中国へ流入し(中国当局による資本管理を迂回しつつ)、人民元を必要な水準へと押し上げることになるだろう。より重要なこととして、その原則は明確なのである。つまり、この新たな政策手段はグローバル金融システムにおける重大なギャップを埋めることになり、また、金融安定性と自由貿易の双方にとっての実質的な脅威を減じることになるはずだ。

0 件のコメント: