2010年11月3日水曜日

【参考資料】 「ドルの問題の解決方法」 フレッド・バーグステン FT

「ドルの問題の解決方法」
英フィナンシャル・タイムズ紙 2007年12月11日付
フレッド・バーグステン
How to solve the problem of the dollar
By Fred Bergsten

世界経済は重大な政策ジレンマに直面している。仮に処理を誤れば、あらゆる通貨の危機の原因を引き起こすことになりかねない。多くのドル保有国は(中央銀行、ソブリン・ウェルス・ファンド、民間の投資家を含めて)明らかに他の通貨への多様化を求めている。ドルでの外貨準備高の合計は少なくとも20兆ドルに上るため、こうした希望を穏やかに実現するだけでも、米ドルの急落や、市場や世界経済にとっての大混乱につながりかねないのだ。こうした影響への懸念は政府レベルでも市場でも大幅に広がっている。

しかしながら、多様化を実現させた場合に自国通貨に(現在のドルのような大量の)資金流入を伴うことを望んでいる国は存在しない。とりわけ、ユーロ圏、英国、カナダ及び豪州は、為替レートが既にかなり過大評価されていると考えている。しかし、中国や他の大部分のアジア諸国は、自国通貨が大幅に上昇するのを避けるために過剰な介入を続けている。したがって、更に大規模なドルからのシフトが起こった場合、変動通貨が均衡水準を遙かに超えて上昇し、新たな収支不均衡が発生し、グローバルな経済成長が深刻に停滞する可能性もある。

こうしたジレンマの解決策で全ての関係国を満足させるような内容は一つだけである。すなわち、IMFにおける代替勘定を創設し、それを通じて、不要なドルが特別引出権(IMFが1969年に初めて導入した国際通貨であり、現在は340億ドル相当が存在する)に変わっていくという方法である。こうした勘定は、1978年から1980年にかけて、現在の状況に酷似した通貨の多様化とドルの急落の動きが見られた際に相当に検討が進んでいた。

当時、こうしたイニシアティブが全世界的な通貨の安定性を向上させるという広範な同意が存在していた。それは影響力の強い民間セクターのグループや議会の指導者、そして、IMFの理事会に至るまでであった。この取り組みが上手くいかなかったのは、ただ単に、ドルが大幅に上昇し、米連邦準備理事会による1979~1980年の金融引き締めによってその論理的根拠の大部分が消失したこと、そして、確固たる地位を得たドルの更なる下落の結果として当該勘定が名目上の損失を計上した場合にどのように埋め合わせをするのかを巡る欧州と米国の意見が収斂しなかったせいである。

代替勘定のアイディアはシンプルである。ドルを市場で他の通貨に交換する代わりに(ドルを押し下げ、他の通貨を押し上げる)、ドル保有国はIMFの特別勘定で不要な外貨準備金を預金することが可能となる。これらは同額のSDR(又はSDR建て証券(certificates))として貸方に記入され、各国は将来的な収支赤字や他の正当なニーズに対するファイナンスを行うためにこれを利用し、勘定そのものに償還したり、他の加盟国に振り替えたりすることが可能である。したがって、当該資産は全面的に流動的となる。

IMFのメンバー国は、新たなSDRを必要なだけ発行することで需要を満たすよう、これを承認することになるだろう。これは、全世界的なマネー・サプライに全く影響を及ぼさない(したがって、世界の経済成長やインフレにも影響が及ばないことになる)。なぜなら、その運営は、或るアセットを別のアセットで置き換えることになるからである。代替勘定はドルの預入金を米国債券に投資することもある。仮に追加的な支援が必要だと判断されれば、IMFが保有する800億ドル相当の金があれば充分過ぎるだろう。

全ての国が利益を得ることになる。過剰にドルを保有していると考えている国は、(ドルが44パーセント、ユーロが34パーセント、円及びポンドが各々11パーセントという)通貨バスケット建てのアセットを受け取り、市場ベースの利益とともに追求している多様化を一挙に達成することになる。彼らは、ドルを過度に押し下げることを回避し、残りのドル準備金での損失を最小化し、システミックな(連鎖破綻の)混乱を未然に防ぐことになる。

米国は、更なるドルの大幅な下落から発生するインフレの増大や金利の上昇といったリスクを免れる。仮にこうしたリスクが現実のものとなった場合、その影響は極めて厄介である。現時点で、米国の経済成長は抑制されており、更に来年以降の景気後退の見通しが高いのである。

国際金融のアーキテクチャーは代替勘定によって大幅に強化されるはずである。戦後初期のドルの危機の後、IMFの加盟国は、それ以降は国際通貨システムが単一通貨に依存することがないようにするための戦略の中心としてSDRを採択した。

1970年代に大部分の主要国で起こった変動為替相場への動きによって、こうした戦略を妥結させる必要性が先送りされたが、同時に、極端な通貨の不安定性を産み出すことになり、勘定に係る正式な検討を促した。ここ数年間におけるグローバルな収支不均衡や通貨の大幅な揺れや、本質的に固定為替相場に戻っている諸国による公的なドル準備金の積み上げが加速していることから、SDRの創設と、勘定に係る交渉の双方につながる条件が再現されている。

代替勘定は、国際通貨に係る全ての問題を解決するわけではないし、また、安定的なグローバル金融システムの回復にとっても充分ではない。

米国の対外収支における均衡を回復するためには更なるドルの下落が必要となる。中国、他の多くのアジア諸国及び大部分の産油国は、短期的には自国通貨の相当な上昇を、長期的には現状に比べて相当に柔軟性の高い為替レートを受け入れる必要があるだろう。しかし、早い段階で代替勘定を採用することで、現時点での収支不均衡の調整や、ドル及びユーロに基づく二極化した通貨システムへの避けようのない構造上のシフトに係るリスクを最小化することになるだろう。

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