9月15日(ブルームバーグ):日本が2004年以来で初の為替介入に踏み切ったことから、今は円安を見込んだ取引の好機だと思うかもしれないが、よく考えてみてほしい。
ジョージ・ソロス氏や同類の投資家たちが円高を見込むべき理由が2つある。1.日本の円売り介入は単独行動で、主要7カ国(G7)による協調介入ではなかった。2.日本の高官が介入の引き金となる水準を投機家に教えるという失敗をしてしまった。
単独介入も水準への言及も、あまり賢い動きとは思われない。米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)の協力のない円売り介入は成功しない。世界中のソロスたちに円の高値試しを考え直させるのは協調介入への警戒だけだ。また、政府は何がおころうと決して、防衛ラインの水準をトレーダーに教えてはいけなかった。
この鉄則を破った仙谷由人官房長官に眉をひそめた人は多かった。仙谷氏は財務省は1ドル=82円を攻撃に出るべき水準と考えていると発言したばかりか、政府は介入について米欧の理解を得ようとしているとまで喋ってしまった。
つまり、FRBとECBが協力していないばかりでなく、米欧当局は介入が必要とも、奏功するとも確信していないということだ。円投機のシーズン解禁だ。
絶好のタイミングであったとしても、介入が成果を上げるかどうかは議論の余地があるところだ。日本はかなり無理をしている。円が15年ぶり高値になったのはドルとユーロが下落しているからで、下落には十分正当な理由がある。
ダブルパンチ
確かに、日本は為替の動きで不当に重い負担を背負わされている。円高は日本にとって最重要の輸出産業に対する最悪のニュースだ。トヨタ自動車や日立製作所の経営陣は、過小評価されている人民元のおかげで絶好調の中国の傍らで自分たちの競争力が殺がれていくのを快く思いはしない。
しかし、現実はこういうことだ。混乱の尽きない世界では、貿易黒字国の通貨が上昇する。日本はこの10年、経済ゲームでの戦闘能力強化を怠ってきたので、今は競争力のない産業が円高への対応を迫られるというダブルパンチに見舞われている。
このため株価は押し下げられ、10年国債の利回りは1%程度にとどまっている。国内総生産(GDP)のほぼ2倍の公的債務を抱える国にしては驚異的に低い利回りだ。この低利回りのおかげで、より高い利回りを提供する商品、例えばサムライ債(外国の発行体が日本で発行する円建て債)などの需要が急拡大した。
シュワルツェネッガー知事
さらに、日本への悲観が海外での投資機会を探る動きを促す。日本を訪れたシュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事に、日本の新幹線を売り込むことになったのはそういうわけだ。カリフォルニア州はロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶ高速鉄道を建設したい。日本の鉄道技術は世界のトップクラスだし、日本には金がある。カリフォルニア州は191億ドル(約1兆6350億円)の財政赤字に直面している。
日本は400億ドル余りのプロジェクトのために、カリフォルニア州に金を貸そうと申し出た。ぴったりの組み合わせに見える。
金利の安い円で借りて、その資金をより高リスクの資産に投資するのは、投資家のお気に入りのゲームだ。こうして、シュワルツェネッガー知事は正式に円キャリートレードの仲間に入った。
中国と韓国もカリフォルニア州のプロジェクトで受注を目指している。シュワルツェネッガー知事は今週、両国も訪れたが、知事は東京で、日本は天才的と語って日本勢を喜ばせた。
ソロス氏とイングランド銀行
日本の指導者たちが「天才」らしく行動してくれたらよかったのだが。与党民主党の代表再選を果たした翌日に菅直人首相は、金融業界知能テストに落第するような大胆な行動に出た。円が今後数週にわたって高いままなら、同首相は間抜けな指導者のように見えるだろう。そして、円が高止まりする確率は高い。
日本の前回の為替介入は不毛だった。日本は2004年3月までの1年3カ月にわたって介入を続け、円相場を押し下げるために、スウェーデンのGDPを超えるほどの金額を投じた。円相場は以来、22%上昇している。
ソロス氏がこの機会を利用しないとしたら、ついに焼きが回ったとしか思えない。同氏は1992年に、ポンド防衛を図るイングランド銀行(英中央銀行)を相手に売り勝ち、10億ドルをもうけた。日銀に買い向かえば今回も恐らく、巨額利益を上げられるだろう。日本の当局者らは無意識に、投機家たちに招待状を送ったも同然だ。(ウィリアム・ペセック)
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