7月14日(ブルームバーグ):ジューン・ブレトン・フィッシャー氏によると、米投資銀行ゴールドマン・サックス・グループの幹部専用フロアの入り口には歴代のシニアパートナーの肖像画が飾られている。同氏はじっくりと眺めた後で「わたしのおじいさんはどこ?」と聞いたという。
革新的な金融手法で近代銀行業というものを形作ったヘンリー・ゴールドマン氏の肖像はそこにはない。創業者の息子である同氏をしのぶスナップ写真すらない。
代わりに、孫娘のフィッシャー氏の著書「When Money Was inFashion: Henry Goldman, Goldman Sachs, and the Founding of WallStreet(仮訳:マネーがはやったころ:ヘンリー・ゴールドマンとゴールドマン・サックス、ウォール街の創設)」が、ゴールドマンの歴史から消された男、ヘンリー・ゴールドマン氏の姿を生き生きと伝える。フィッシャー氏に話を聞いた。
おじいさんとの思い出で好きなものは何ですか?
「夏休みを家族で、アディロンダック(ニューヨーク州の北東部、アパラチア山脈にある山岳地帯)にある祖父母の家で過ごしたの。そういう時の祖父はいつもよりリラックスしていて楽しい面を見せてくれたわ」
おじいさんといろいろなことを一緒にしましたか?
「テニスやクロケットの大会があると一緒に座ったわ。祖父はそのころもう目が見えなかったから、わたしがスポーツキャスターになって試合を実況してあげたの」
改革
そのころにはおじいさんはすっかり業界を改革されていましたよね?
「祖父は業界の予言者だった。新規株式公開(IPO)や株価収益率(PER)、米連邦準備制度をつくった人で、その上、米経済の土台になる56の企業の証券を引き受けたのよ」
ゴールドマン創設者のひいおじいさんもすごい方ですね。でも最初、息子のヘンリー氏ではなく娘婿のサム・サックス氏にゴールドマンに入るよう求めた。なぜだったのですか?
「曽祖父は口が立たない祖父を過小評価していたの。それに、祖父は目が悪かったためにハーバードを中退していたし」
ヘンリー氏は結局1885年にゴールドマンに入社されましたね。状況が変わったのでしょうか?
「事業があまりにも速いペースで拡大して、人手が必要になったからよ。祖父はサム・サックスと同じポストで採用されたわけじゃなかったけど、鉄道債への投機ですぐにお金をもうけ始めたわ」
ドイツ
「頭の回転が速くて新しい投資先を見つけるのがうまかった。一番すごいと思ったのは、ユナイテッド・シガーのような会社の優先株と普通株を発行する計画を1時間で作ってしまうところだった」
ゴールドマン対サックスの争いを引き起こしたのは何だったのですか?
「最初は、第一次世界大戦についての見解が全く反対だったことね。祖父はドイツ寄りでサックスさんは連合軍びいきだった。そのことで長い間怒鳴り合っていたわ」
そしてとうとうヘンリー氏がゴールドマンを辞めたのですね?
「祖父は怒っていたし争いにうんざりしていた。それでとうとう、机を片付けて出て行ったの。15件の大口顧客と会社への自分の出資分を持ってね。最有力のパートナーだったから、利益の取り分も一番多かった」
なぜそんなにドイツ好きだったんでしょう?
「1年のうち半分をドイツで過ごしていたの。ドイツ人は働き者で、働き方についても斬新だと考えていた。子供と花を愛する人たちだとも思われていたし」
道徳心
ヒットラーはおじいさんの気持ちを変えましたか?
「祖父と祖母はベルリンに行って、いつも楽しい時間を過ごしていたの。でも友達だった人たちが口をきいてくれなくなり、オペラにも行かれなくなったし、30年来の顔見知りのウェイターさんが注文を取りに来るのを嫌がるようになったんですって」
「白い杖をついているのに路上で押されたりして、ドイツが変わってしまったことに気付いたの」
おじいさんの対応はどんなものでしたか?
「大勢の友達を助けたわ。芸術家や作家、科学者たちのためにビザと仕事を手に入れてあげたの」
このごろはゴールドマン・サックスのことがよく報道されていますね。でも同社がこのように論争の的になったのは今回が初めてではないですよね?
「ええ、1930年代にもひどくたたかれたわ。祖父の後任として入ってきたワディル・キャッチングスという人物は頭が良かったけど悪党だったの。彼がつくった幾つかの投資会社はつぶれるまでは大きくもうけたけれど、実はねずみ講以外の何物でもなかったのよ」
現在の状況をどうお考えになりますか?
「がっかりしているわ。祖父もサックスさんも、とても倫理的で道徳心のあるビジネスマンだった。彼らが心底で何よりも望んでいたのは、ゴールドマン・サックスの名前を守ることだったのよ」(ジンタ・ルンドボーグ)
(ルンドボーグ氏はブルームバーグ・ニュースの芸術、娯楽分野の書評家です。このインタビュー記事内の見解は同氏自身のものです。この記事は長い対話から抜粋してまとめました)
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