2010年 06月 8日 15:51 JST
[東京 8日 ロイター] 金融マーケットが波乱ムードに包まれる中、金市場だけが活況を示し、最高値に迫る動きとなっている。欧州債務問題に収まる気配が感じられず、金は安全資産との位置づけからリスクを回避した資金を呼び込む状況が続いている。
ただ、こうした動きは低金利によって生じた余剰資金の受け皿として機能している面が色濃く、米国が出口戦略を急ぐなど金融政策に変化が感じられれば、反動安のリスクがあるのと声も出ている。
7日のニューヨーク商品取引所(COMEX)の金塊先物相場は大幅続伸。中心限月8月物は1オンス=1240.80ドルと前週末終値(1217.70ドル)比23.10ドル高で終了した。その後の時間外取引でも堅調に推移しており、ニューヨーク市場での最高値1249.70ドルが視界に入ってきたとみられている。市場では「欧州の信用不安がくすぶり続ける中で、リスク回避の手段として安全資産である金にマネーが向かっている」(商社系商品会社情報担当者)との声が出ていた。
5月中旬に最高値を形成した金も、さすがに最近の欧州債務問題を背景にした金融市場の波乱に抗し切れず、調整を余儀なくされていた。ところが、各国の株式市場や他の商品市況が下げ相場から抜け出せない中にあって、金相場はいち早く立ち直る構えをみせている。この背景について「直近の下落では他のアセットの損失を埋めるため、合わせ切りの対象になった様子。基本的に金がリスク回避用の資産であるとの位置付けに変わりはない。このため他のコモディティ市況とは一線を画し、戻りに転じるまでのスピードも速かった」(日本ユニコム・調査情報部長の菊川弘之氏)との声も出ていた。
金が他のコモディティとは異なる点について、マネーの吸引力だけではなく実需動向が挙げられる。原油、銅をはじめとする非鉄金属、穀物などは、中国ほか新興国の経済成長によって、実需の消費拡大期待も買い材料となっているが、金はそうなっていない。
世界規模で貴金属に関する調査を行う独立系調査会社であるGFMS社によると、民生・産業用すべての正味需要量を差し引いた鉱山生産量は、足元では生産量が需要を上回る状態が続いているという。同社がまとめた全世界における2009年の金の需給動向で、鉱山生産量や中古金スクラップ、公的部門からの売却を合計した供給量は前年比8.3%増。それに対して、宝飾品などの加工用合計量は同16.3%減となった。つまり、実需だけでは大幅な余剰となる分を投資マネーが吸収、相場上昇を支える形となっている。
実際、投資家層の購入意欲は強く、買い間口も拡大している状況。「購入層も過去は比較的年齢が高い富裕層が中心だったのが、最近では純金積み立てを利用する若年層も増えるなど、投資家のすそ野が広がっている。日本だけではなく、コイン購入が主流の欧米など世界的にも同様のトレンドとなっている」(田中貴金属・執行役員貴金属部長の池田収氏)との声も出ていた。欧米ではファンド系資金の投資額が増加する一方、金の小口投資数量が09年は約400トンと07年に比べて8倍に増加したとのデータもある。
GFMS・CEO、ポール・ウォーカー氏は、7日に都内で開催したGFMS年次報告書発表会の席上で「低金利など現在の経済環境も金相場に追い風となっており、2010年中に価格が下落に転じる可能性は低い」とコメントしていた。
もっとも、ウォーカー氏は「1200ドル台の相場を維持するには、投資家が金を常に買い続ける必要がある」とも指摘。宝飾加工など実需だけをみた場合、経済成長で消費量が一段と拡大するといった原油などと比べ、金は需給不均衡状態となっている。マネーの流れがいったん変化した場合、ファンド系資金が価格形成に大きく影響を及ぼしているだけに、相場が反転する懸念が高まる。7日のニューヨーク市場では、大口のファンド筋が金塊買いに乗り出すとの観測も、一部で買い材料視されていた。
日本ユニコムの菊川氏は「足元の金について売り材料を探せば、間違いなく金利の上昇。現在は欧州債務問題で米国の出口戦略が遠のいている印象だが、これが早まった場合、リスクが大きくなる」と指摘する。
日本国内では金の購入意欲が高まっている状況だが、その一方で「20数年ぶりの大相場とあって、現物の換金売りも目立っている」(菊川氏)という。これについてGFMSのウォーカー氏は「日本の投資家は最安値圏で買い越していたが、過去のトレンドをみると逆に最高値圏では売り越す。ここにきて彼らが売りに出ているのは気になる現象だ」と語っていた。
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