5月29日(ブルームバーグ):在大阪インド総領事館のビカース・スワループ総領事(48)は、外交官と同時に作家としての一面も持つ。昨年のアカデミー賞で8冠に輝いた映画「スラムドッグ$ミリオネア」の原作者で、赴任先の大阪で総領事としての業務をこなすかたわら、密かに次回作の構想を練っている。
カプセルホテルやラブホテルなど日本独特の文化に関心があるといい、これらを題材とする短編小説を書いてみたいと話した。インタビューは4月5日、大阪市中央区の同総領事館で行った。
ギブソン:大阪勤務は自身で希望したのか。
スワループ:そうだ。これまでいろいろな国で副領事など補佐的な仕事をしてきたが、そろそろ総領事として責任ある仕事を任されてもいいころだと思い、異動の希望を出したところ、認められた。
堀江:実際に住んでみて日本や大阪の印象は。
スワループ:「きらびやかなハイテクの国」という頭に思い描いていた通りの印象だった。ただ、こんなに近代的な国であるにもかかわらず、伝統的な側面も持ち合わせていることには感心した。大阪はフレンドリーで東京と比べて時間の流れがゆったりしている印象だ。
ギブソン:「スラムドッグ$ミリオネア」の原作となった処女小説「Q&A(邦題・ぼくと1ルピーの神様)」を執筆した動機は。
スワループ:この小説は、ロンドンに勤務していた2003年に約2カ月間で書き上げた。ロンドンはニューヨークと並んで英語圏の出版業界の拠点。外交官仲間で作家志望の人がいるなど、刺激を受けて自分でも小説を書いてみようと思った。出版社の人が「これはすごい作品だから、十分な準備期間を経て売り出したい」と言ったため、結局、発表されたのは05年になった。インドの小説が西洋の映画になるということはこれまでほとんどなく、映画化されるなど思ってもいなかった。
ギブソン:大阪で新しい小説を書く計画は。
スワループ:日本で生活を始めてあまり時間がたっておらず、日本や日本人の本質についてまだ十分理解できていないので長編小説を書くのは難しいのではないか。ただ、短編小説を何本か書くということはあるかもしれない。今、私が関心を持っているのは日本のカプセルホテルやラブホテルなどだ」
堀江:なぜそうしたものに関心を。
スワループ:「たとえば土地の問題があればカプセルホテルを作るし、プライバシーの問題があればラブホテルを作る。そしてラブホテルは決してこそこそ出入りするような安っぽい場所では決してない。日本ではすべてオープンで何か問題があればそれに対する解決策が用意され、ほしいものが堂々と手に入れられる。そういう点は素晴らしいと思う」
「『オタク』という言葉に代表されるように、細部にこだわる独特の気質も興味深い。また、日本人が美しいものへの感受性を持っていることはもっと知られるべきだ。俳句などはまさに美そのものを歌にしたものだし、春にはお花見で大勢の人が賑わう。日本以外の国の人々はこうした瞬間の美に対する感性を失ってしまったと思う」
堀江:大阪では小説を書く時間はとれそうか。
スワループ:赴任する前は時間に余裕ができると思っていたが、それは大きな間違いだった。休日も講演やイベント、インド人コミュニティーの集まりなどに出席することが多く、本当に時間が取れない。本業優先で小説執筆はあくまでも趣味。締め切りに追われる状態も好きではないので、自分のペースで書こうと思う気持ちになれれば書いてみたいと思う。ただ、インドに戻ると仕事はもっと忙しくなることが予想されるので、大阪にいる間が小説を書くチャンスであるということは言えると思う。
ギブソン:日本とインドの関係改善にどんな役割を果たしたいか。
スワループ:日本とインド間の貿易は年間120億ドル(約1兆1000億円)に達するが、その多くは東京で行われている。大阪は伝統的に繊維の取引が強かったが、ここにきてハイテク関連でも注目集めるようになってきた。バイオテクノロジーやヘルスサイエンス、再生利用可能エネルギーなどはインドにとっても非常に関心がある分野。大阪に本社を構える企業に対して、インドにもっと真剣に関心を持ってもらい、彼らの技術を売り込んでもらえるような努力を続けている。そうすることで大阪も利益を得られるだろう。
スワループ氏は1961年6月23日、インド北部アラーハーバード生まれ。地元の大学で歴史学や心理学、哲学を学ぶ。卒業後、外交官としてトルコや米国、エチオピア、英国、南アフリカなどで勤務、09年8月から現職。趣味は音楽鑑賞、スポーツ(クリケット、テニス、卓球)。家族は妻と息子2人。
0 件のコメント:
コメントを投稿