2010年5月9日日曜日

米機撃墜でニクソン政権、北朝鮮空爆を検討

5月9日3時4分配信 読売新聞

 【ワシントン=小川聡】1969年に米軍偵察機「EC121」が日本海で北朝鮮の戦闘機に撃墜された事件の後、ニクソン米政権が朝鮮半島有事に幅広く対応するための対処方針を策定するとともに、撃墜事件への報復措置として北朝鮮の発電所や軍用空港を空爆する計画をまとめていたことが、8日明らかになった。

 米国務省が4日に公表した69~72年の米韓外交に関する機密文書に関連文書が含まれていた。

 対処方針は、大統領の指示のもと、キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官が議長を務める「ワシントン特別行動グループ」内の「朝鮮作業部会」が策定にあたった。想定される緊急事態を〈1〉米国に対する北朝鮮の深刻な敵対行為〈2〉同小規模な敵対行為〈3〉韓国に対する北朝鮮の深刻な敵対行為――など6通りに分類。それぞれに対して、米政府が取るべき対応として、「上陸急襲の実行」「選択的な空爆」「海上封鎖」などが含まれていた。

 ニクソン政権は対処方針作りと並行して、国家安全保障会議(NSC)などで撃墜への報復措置を議論。〈1〉「空軍施設への空爆」〈2〉軍用空港や発電所1か所への「限定的な空爆」――の二つのシナリオを集中的に検討し、米中央情報局(CIA)が5発電所を爆撃対象として特定した。

 空爆では空母のほか、グアムと日本へ返還前の沖縄の戦闘機が参加するとされ、日本への通知時期については、「30分あれば十分。その時にだれが日本の首相かにより、決定すればよい」とされた。

 実際には空爆は実行されなかった。公開された別の文書には、当時のレアード国防長官が「東南アジアから兵、弾薬、装備を回さなければならない」と、ベトナム戦争への影響を心配する書簡をニクソン大統領に送付したことが書かれている。NSCの議論で、大統領が「もしソ連が援助したら、別の種類の戦争になる」と慎重意見を述べていたことも明らかになった。

 今日、朝鮮半島有事への当時の対処方針がそのまま適用されることはあり得ないが、それが明らかになったタイミングが韓国海軍哨戒艦「天安(チョンアン)」の沈没を巡って朝鮮半島の緊張が高まっている時期と重なったことは、北朝鮮が挑発行為をエスカレートすることをけん制する強い圧力になるとみられる。

 ◆EC121撃墜事件=1969年4月15日、北朝鮮から約130キロ・メートルの日本海上で、北朝鮮の戦闘機が米海軍のプロペラ式偵察機「EC121」を撃墜し、乗員31人を死亡させた。北朝鮮は、同機が領空侵犯後、逃走したと主張した。

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