7月16日(ブルームバーグ):ドル・円相場が1ドル=79円75銭の戦後最安値(ドル安・円高)をつけた1995年4月の「超円高」を独自のチャート分析などに基づき予言した若林栄四氏は、米国の財政赤字や金融緩和の行き過ぎに対する懸念を背景に、ドル・円は2011年秋に74円前後まで下落すると予想している。しかし、ドルに代わる通貨は存在せず、以後は超長期にわたるドル高・円安に転じるとの見方だ。
ニューヨーク在住で、東京の投資情報サービス会社、ワカバヤシ・エフエックス・アソシエイツの代表をつとめる若林氏(65)は15日までの電話インタビューで、ドル・円は「今年末から来年初めにかけて90円を割り込み、87円を切る」と予想。その後3-5カ月間持ち直した後、11年秋に向けて「ズドンと」下落するだろうと語った。
若林氏によると、ドル・円相場は71年12月を起点とするドル安・円高の超長期トレンドラインに沿って動いている。ニクソン米大統領(当時)が同年8月に金とドルの交換停止を発表し、12月のスミソニアン協定でドルが他の主要通貨に対して切り下げられるまでの1ドル=360円から、82年11月の277円65銭と「プラザ合意」の約7カ月前につけた85年2月の262円80銭を通る傾向線だ。同線は今年6月には89円前後にあり、11年秋には74円程度に下がるという。
2011年は、第2次世界大戦後の国際金融システムを取り決めた44年のブレトン・ウッズ協定の下で1ドル=360円体制が固まった49年から62年後に当たる。若林氏は、数字の62は黄金分割理論で重要な0.618に近似すると指摘。同体制が崩壊した71年から40年間にわたるドル安・円高の終着点に相応しいと述べた。
ドルの印刷、一転円安へ
ドル・円相場は1月21日に87円13銭と、95年7月以来13年半ぶりの水準に下落(ドル安・円高)した。4月6日に約5カ月半ぶりに101円44銭まで上昇したが、7月13日には91円74銭と約5カ月ぶりの安値をつけた。16日午後1時時点では94円6銭。
若林氏は「相場のトレンドは、日柄が尽きるまで走る。ファンダメンタルズとは必ずしも一致しない」と言明。米経常赤字の減少などファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)はドル高・円安に傾いていくが、市場参加者は米財政赤字の拡大と金融緩和という「ドルの印刷」を背景とした米インフレ懸念に注目してドルを売るだろうと話した。
しかし、米財政赤字に関しても「米家計の貯蓄率上昇を考えれば、ファンディングは楽にできる」と分析。11年秋に74円をつけた後は、相場とファンダメンタルズの「ものすごいねじれ現象」によって蓄積されたドル高エネルギーが噴出すると予想した。超長期のドル安・円高は終えんを迎え「100年単位で360円に回帰していく」という。
ドルに代役なし、デフレ長期化
若林氏は、ドル安が進んでも「ドルに代わる通貨はない」と言明。欧州連合(EU)は政治的統合が見込めないうえ「低成長地域」であり、4兆元規模の景気刺激策に取り組む中国にも「米国に匹敵する引力はない」と述べた。中東諸国やロシアなどのオイルマネーは、原油価格が11年には1バレル30ドル以下に暴落するため、「なくなってしまうだろう」と語った。
世界的な信用バブルの崩壊がもたらした巨大なデフレ圧力は、オバマ米大統領や胡錦濤中国国家主席、麻生太郎首相らが率いる各国政府が「数百兆円を投じた程度で完治するほど生易しくない」と分析。市場ではインフレ懸念が台頭するが「誤り。正体はデフレだ」と強調し、米金利の上昇局面は「絶好の買い場になる」とも述べた。
デフレを解決できるのは「時間だけ」であり、前例のない財政出動と金融緩和を正常な状態に戻していく「出口政策」は「時期尚早だ」と言明。それでも、各国の政策当局者は1930年代の米国や2000年の日本が経験したのと「同じ失敗を繰り返すだろう」と語った。
米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は来週の米議会証言で、異例の与信拡大政策からの出口戦略に言及する可能性がある。FRBの総資産は昨秋以降、倍以上の約2兆ドルに拡大。昨年10月に始まった今会計年度の米財政赤字は9カ月間で1兆ドルを突破した。欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は13日、出口戦略の策定を時期尚早とする認識は「明白な誤りだ」と述べた。
若林氏(65)は66年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。87年から96年まで勧角証券(アメリカ)の執行副社長を務めた。ドル・円相場が140円前後だった90年代前半、独自のチャート分析などに基づき「95年4月に1ドル=80円」と予測。79円75銭の史上最安値(ドル安・円高)を的中させた。その直後には一転、「10年後は1ドル=150円」と予想。時期こそ外れたが、ドル・円は98年に147円台に上昇した。
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