3月3日(ブルームバーグ):インフレや景気の減速により世界の主要通貨や債券、株式の価値が低下するなか、金、銀、プラチナ、そしてパラジウムがことし、最も高い上昇率を示す金融資産となる可能性がある。
貴金属は2008年に入って、ユーロと円の少なくとも2倍の上昇率を示し、リターン(投資収益率)は米国債の6-20倍に上る。S&P500種株価指数などの主要株式指数が下落する一方、金現物相場は3日、過去最高値の1オンス当たり980.98ドルに達し、銀相場も2月29日に1980年以来の高値を付けた。
ドル相場が最安値まで下げ、インフレが加速するなか、投資家らは購買力を維持するために金属を利用している。エクイデックス・ブローカレージ・グループ(ニュージャージー州)のトレーダー、ロン・グッディス氏は、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が消費者物価の上昇抑制よりも利下げを優先しているため、金、プラチナ、パラジウム相場はことし、少なくとも30%上昇するとみている。グッディス氏は1978年から貴金属取引に携わっている。
デルタ・グローバル・アドバイザーズ(カリフォルニア州)で15億ドル(約1550億円)相当の運用を手掛け、金も保有しているチップ・ハンロン氏は「ことしの財政環境が、金や商品相場の上昇を支持しないような状況になるとは考えにくい」と予想。「通貨に投資するほうが金属より投資収益が低いなら、金やプラチナを保有するのは当然だ」と指摘する。
大半の金属がドル建てで取引されているため、金属相場はドル相場と連動している。バーナンキ議長が、米経済のリセッション(景気後退)入りを回避するため、5回に及ぶ利下げの最初の利下げに踏み切った昨年9月18日以降、金相場は35%高騰。1980年以来の高値を突破した1月以降では11%上昇している。グッディス氏は、金相場は年末までにさらに33%上昇し、1300ドルに達する可能性があるとみている。
プラチナとパラジウム
宝飾品や自動車の触媒コンバータ(浄化装置)、歯冠やブリッジなどに利用されるプラチナとパラジウムの年初来上昇率は金を上回っている。
プラチナ相場は年初来で43%上昇し、2月22日には最高値の1オンス当たり2214.50ドルに達した。グッディス氏はさらに38%上昇し、年末までに3000 ドルに達すると予想している。同氏は年初にプラチナ相場の高騰を予測した。パラジウムについては6月までに30%上昇し、1オンス当たり750ドルに達する可能性が高いとみている。
クレディ・スイス・スタンダード・セキュリティーズ(ヨハネスブルク)のアナリスト、デービッド・デービス氏は、銀相場が年内にさらに26%上昇し、1オンス当たり25ドルになると予想する。
過去最低水準のドル相場
主要6通貨に対するドル指数は先週、73.56と、1973年の指数導入以来の最低水準となった。消費者物価が世界的に上昇し、資産としての通貨の投資妙味が低下したことから、ユーロ、円、ポンド建てで取引される金もことし、最高値に達した。
イングランド銀行は昨年11月以降、2度にわたって借り入れコストを引き下げた。一方、ユーロ加盟15カ国の1月のインフレ率が3.2%と14年ぶりの高水準となったことから、欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は利下げに消極的な姿勢を示している。
「ベッドの下に」
三菱東京UFJ銀行(ニューヨーク)の米国コーポレート外為セールス部門のバイスプレジデント、ロバート・フレム氏は「価値を保存する手段として信頼できる通貨がなければ、新しくつくり出す必要がある」と指摘。「安全性を模索した結果、金属に投資する結果となっている。金属はベッドの下に置いておくことができる。そして、それが最良の投資手段になることもある」との見方を示す。
金を大量に保有している国の一部が金を売却したりドル相場が反発したりすれば、金属の上昇相場は消え去ってしまう可能性もある。
国際通貨基金(IMF)で最大の投票権を握る米国は2月25日、IMFが予算不足に対応するため保有金401トンを売却することを支持する可能性を示唆した。米金融当局は、数カ月以内に食料やエネルギーの価格の上昇が止まると予想している。為替取引で最大手のドイツ銀行は、対ユーロのドル相場が年末までに1.37ドルまで上昇すると予想している。
先物取引会社ヘリテージ・ウェスト・フィナンシャル(サンディエゴ)のアナリスト、ラルフ・プレストン氏は「金は通貨ではない。セブン-イレブンで金貨を使うことはできない」と指摘する。
金相場は1999年7月、当時、英国の財務相だったブラウン首相が金を売却し国債に投資する政策を押し進めたことから、253.20ドルと、20年ぶりの安値まで下げた。
ノーザン・ロックの取り付け騒ぎ
米リーマン・ブラザーズの鉱業アナリスト、ピーター・ウォード氏は当時、他の中央銀行がブラウン前財務相の動きに従うため金相場が3-4年間は約280 ドルの水準で推移すると予想した。実際には、ドル相場の下落により、金相場は 03年末までに417ドルまで上昇した。ウォード氏に先週、取材を申し入れたが同氏はコメントを控えた。リーマンは08年の金相場の平均を880ドルと予想している。
貴金属取引会社ゴールド・アンド・シルバー・インベストメンツ(ダブリン)によると、サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン危機の影響で英銀ノーザン・ロックが経営難に陥り、英国で約100年ぶりとなる取り付け騒ぎが発生するなか、同国の金需要は昨年9月中旬から10月中旬にかけて20%急増した。
ゴールド・アンド・シルバー・インベストメンツのエグゼクティブディレクター、マーク・オバーン氏は2月26日のインタビューで、新規の金の購入者の少なくとも95%が資産を金で保有していることを明らかにした。
オバーン氏は「彼らはかなり神経質になっており、安全性を求めている。貯蓄をすべて金に投資している人もいる。それほど神経質になっている」と述べた。
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