ニューヨークで開催された投資家向け会議「アイラ・ソーン・リサーチ・コンファレンス」をモデルとする「Invest for Kids」会議がシカゴで実施された。同会議は一部の米トップ資産運用者が集まり、最善の投資アイディアを提案するもので、収益はチャリティーに提供される。
9日のシカゴはじめじめした雨模様だった。その日の株式市場は、イタリア国債の利回りが、後戻りできない地点(ポイント・オブ・ノーリターン)とみなされる7%を上回ったことを受けて、売りこまれた。弱気筋は、欧州の大半が金融崩壊に向かう取り返しのつかない軌道にあるのだろうか、と考えていた。
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また、長期にわたって先物取引の要塞となってきたシカゴの金融業界で、米商品先物仲介業者MFグローバル・ホールディングスの破綻で明らかになった約6億ドルの行方不明の先物口座顧客資金を巡り多くの向きが歯ぎしりしている。つい最近までMFグローバルの最高経営責任者(CEO)を務めていたジョン・コーザイン氏は良く知られたリベラル主義の民主党議員だった。しかし、イタリアをはじめとする脆弱なユーロ圏諸国の国債取引の資金繰りに充てるため6億ドルをくすねるというアイデアは、やや行き過ぎた富と所得の再配分のようにみえる。
こうした全ての要素にもかかわらず、今回の会議は悲観的からは程遠いものだった。その基調は先週の最後の2営業日に見られた相場の急反発により正当化されたようにも思われた。また、投資不適格級(ジャンク)債の帝王と呼ばれたマイケル・ミルケン氏や不動産王のサム・ゼル氏などの大物も今回の会議に多数参加した。
ミルケン氏は特定の投資アイデアは提供せず、講演時間の多くを費やして医学研究と教育改革および、証券詐欺罪での22カ月間の懲役後に設立したミルケン・インスティチュートというシンクタンクについて語った。ミルケン氏の見解は以下の通り。90年代以来増え続ける米国の肥満は、完全に予防できるものに対する年間1兆ドルの無駄な医療費の支出をもたらしており、さらに米国民は教育と比べ、住宅と移動手段(自動車)に多過ぎる支出を行っている。これは中国などアジアの社会の優先順位と正反対であるということ。
投資に関しては、ミルケン氏の見解は極めて標準的だった。欧州連合(EU)の経済通貨統合はドイツやノルウェーといった北部諸国と、効率があまり良くない地中海沿岸諸国間の労働生産性の不均衡が、失業率の大きな格差につながっていることが問題だ。ソブリン債券は、歴史的にみてギリシャのような常習的なデフォルト国があまりにも多いために、いずれにしても健全な投資手段ではない。人口拡大と中流家庭の台頭のために、中国とマレーシア、タイ、フィリピンやインドといった諸国が明らかに投資すべき諸国となっている。
一方、ゼル氏は新興諸国について発言するよう求められた。同氏が共同経営者を務める投資会社エクイティ・インターナショナルは過去約10年間にわたって20億ドル規模の投資資金を同セクターに配分している。一方、先進国の大半は人口減少に苦悩している。同氏は日本について、2050年までには退職者1人を勤労者1人で支えることになる見通しだと指摘した。
また同氏は、エクイティ・インターナショナルの投資が特に注目しているブラジルについて集中的に発言した。ブラジルは食料とエネルギー、水の自給が十分。ブラジルの中流階級は現在の人口の25%から65%に急拡大している。同国のルラ前大統領といった社会主義の政治家でさえ、自由市場志向を強め、財政責任を負うようになった。ブラジルの主要都市の郊外では住宅やインフラの建設ラッシュで、50年代の米国が思い起こされるという。
スターウッド・ホテルチェーンの創業者でスターウッド・キャピタル・グループのバリー・スターンリック氏は今後数年間の住宅用不動産市場の好転の兆候について言及した。世帯数の増加が続いていること、一部がルームシェア、あるいは親との同居を余儀なくされていること、低金利に加えて値ごろ感が強まっていること(賃貸コストは最近、数十年ぶりに住宅所有コストと同等になった)などで、先送りされた住宅需要が積み上がっていると指摘。
住宅着工件数は30~40万件に落ち込んでいる。需要が通常の状況であれば、130万件の住宅着工が必要となる。住宅差し押さえや住宅ローンの延滞件数は減少し始めている。最も重要なことに、差し押さえ物件の投げ売りを除くと、実際、住宅価格の上昇が見られている。
スターンリック氏は住宅建設業者のトール・ブラザーズを選好している。キャッシュポジションや土地在庫がしっかりしている上、(60万ドル以上の住宅といった)より富裕な買い手という特定市場に強みがあることが理由。富裕層は直近の大不況でもそれほど打撃を受けず、住宅の購入に向ける資産が十分にある。
同氏はまた、ホームセンター大手のロウズも推奨する。ロウズは住宅建設が急増する際に繁盛が見込まれるという。同社はアパートの修理を行う顧客を取り込んで何とかうまくやってきた。ロウズはまた、自社株買いプログラムに積極的に取り組んでおり、スターンリック氏はロウズが最終的には発行済み株式全体の約70%を吸収する可能性があるとみている。さらにロウズは店舗の約90%を所有していることから、不動産取引への参加も可能だ。
株式運用会社のガードナー・ルッソー・アンド・ガードナーのパートナーでバリュー株の投資家、トーマス・ルッソー氏は、スイスの食品大手ネスレや英ビール大手サブミラーといった欧州の多国籍大企業の株式を推奨する。こうした企業は売上高の大部分を欧州以外に頼っており、したがってユーロの下落はこれら企業にとっては収益拡大につながる可能性がある。
同氏はまた、こうした企業の世界的な事業展開や新興市場への参入のうまさと粘り強さに加え、強いブランド価値も称賛している。
オメガ・アドバイザーズのヘッジファンドマネジャー、リオン・コーパーマン氏は、米国の二番底のリセッション(景気後退)は予想していない。また、欧州の政治家が懸念を強め、欧州中央銀行(ECB)にユーロ擁護を十分に公約させ、波及懸念をかき消させることができれば、欧州の金融危機も最終的には後退すると確信している。同氏は米株式が多くの基準からみて割安とみている。同氏が言及する株式の一角に米衣料店、チャーミング・ショップスがある。
アベニュー・キャピタル・グループのマーク・ラスリー氏は、米自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)の株式に多くの価値を見出している。同氏は、GMの金利・税金・償却前利益、支払利息・税金・減価償却・償却控除前利益(EBITDA)に対する企業価値(EV)がわずか1倍となっていることに言及した。フォードの場合はEBITDAに対するEVは3倍となっている。また、GMの破産申請後の債務は50億ドルにとどまっている。
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