2011年6月8日水曜日

ブラジルのヘッジファンド詣で引きも切らず、高成績で低リスクが魅力

6月7日(ブルームバーグ):ごく少数の時もあれば10人のグループの時もあるが、毎週のように投資家がやって来る。サンパウロのグアルリョス国際空港から直接来る人もいる。彼らが向かう先はヘッジファンド会社のクレディ・スイス・ヘッジング・グリフォだ。世界屈指の運用成績を誇るヘッジファンドに多額の資金を投資させてくれと懇願にいくのだ。

  ヘッジング・グリフォの運用担当者の返事は大抵の場合、丁寧だが断固としてノーだ。ヘッジング・グリフォのベルデ・ファンドは1997年以降のリターンが年平均でプラス33%。同社ストラテジストのルイス・パウロ・パレイラス氏は、ある米国人は3年間の解約請求を認めないという条件まで付けて投資したいと申し出たが、「年金基金や寄付基金、政府系の資金を全て断った」と話す。

  パレイラス氏によれば、ヘッジング・グリフォは80億ドル(約6400億円)を運用するが、規模が大きくなり過ぎると自社の取引がブラジル市場を動かすことになりかねないと運用担当者らは懸念している。ブルームバーグ・マーケッツ誌7月号が報じた。

  過去10年のヘッジング・グリフォの高リターンは中南米最大の経済規模を誇るブラジルでも群を抜いているが、新規投資家をなお受け入れている他のブラジルのヘッジファンドもさほど出遅れてはいない。欧米人はそれに気付き始めている。

  ブラジルのファンドが9割を占めるユーリカヘッジ中南米オンショア・ヘッジファンド指数は、2001-10年に世界全地域で最も高い年平均プラス20%のリターンを記録した。

            株式と債券だけ

  皮肉なのは、大半のブラジルのヘッジファンドのトレーディング戦略がインデックス投信に似ている点だ。ブラジル当局は投信と区別するためにヘッジファンドをマルチ戦略会社と呼んでいるが、ブラジルのファンドマネジャーらは運用資産のほぼ全てを債券と株式に投じている。

  ヘッジファンドを規制されない資本プールと位置付けられる米国とは異なり、ブラジルのヘッジファンドは資産価値を監督当局に日々常に報告する。ポートフォリオを開示する必要があるほか、投資家から解約請求があった場合には通常、数日以内に対応できるようにしなければならず、高リスク投資を数多く実行することができない。

  そのような状況は、ブラジルのヘッジファンドの運用が比較的容易であることを意味していると米サンフランシスコのヘッジファンド、ルーメン・アドバイザーズの共同創業者、サイモン・ノセラ氏は考えている。同氏は「ブラジルの株価指標であるボベスパ指数と国債を買うだけでいい。超アクティブで優秀なトレーダーである必要はない」と指摘する。

             新たな富裕層

  それでも投資家から不満は聞こえてこない。過去10年の間、国債と株式が世界の大半の指数を上回るリターンを記録し、ブラジルのファンドがもうけてきたためだ。財政緊縮策と記録的輸出、所得の増加が急成長を後押ししてきた。

  01年以降を見ると、2年物のブラジル国債は年平均プラス17%のリターンを記録し、ボベスパ指数は年16%上昇した。この間、S&P500種株価指数の上昇率は1%にとどまり、ユーリカヘッジによると、世界のヘッジファンドのリターンは年間プラス11%だった。

  ブラジル経済は昨年7.5%成長と、20年ぶりの高い伸びを記録し、新たな富裕層投資家階級を生み出している。バンク・オブ・アメリカ(BOA)のワールド・ウェルス・リポートによれば、06-09年に3万8000人が100万ドル以上の資産を持つミリオネアとなった。毎日26人のペースだ。

サンパウロの調査会社エコノマティカによると、ブラジルのアナリストやトレーダー、元インベストメントバンカーらは過去1年間にヘッジファンド31本を新規設定し、同国のヘッジファンドの数は462本に達している。

  ブラジルが09年に初めて投資適格級格付けを獲得したことで、ブラジル国債は大幅上昇。しかし、通貨高騰やインフレ加速を考えると、現在と同じような高いリターンが今後も続くかどうかは疑問だとゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのジム・オニール会長は警告する。

          「ブラジル・キット」

  ブラジルのヘッジファンド業界には「ブラジル・キット」と形容される運用戦略がある。運用資産の約66%を債券に投資し、残りの大部分を株式に配分する一方、通貨やブラジルの金利関連にも多少の投資を行うもので、極めて単純な戦略であるためこう呼ばれる。

  レブロン・エクイティーズ・ジェスタン・ジ・レクルソスの共同創業者、マルセロ・メスキタ氏によれば、ファンドマネジャーらはブラジルの資産家から常に国債を上回るリターンを求められており、その多くが国債のリターンを下回ることを心配するあまり、割安株への投資機会を逸しているという。ユーリカヘッジによると、中南米のヘッジファンドの運用報酬は、預かり資産の平均1.88%と運用収益の20%で欧米と同じ水準だ。メスキタ氏はリスクを取らない運用者にこれほどの報酬を支払うべきではないとの見方を示す。

  ブラジル株の選択肢が乏しいことも、このような運用戦略が採用される背景にある。ブラジルの上場銘柄数は467銘柄と、米国の5700銘柄に比べて少なく、ボベスパ指数の時価総額の5割を上位10銘柄が占めている。ファンドマネジャーの選択肢が限られる中で、「誰もが同じような運用を行うため差別化が難しい」と野村ホールディングスの中南米ストラテジスト、トニー・ボルポン氏は分析している。

  だが、多くの投資家にとって運用をめぐるこうした状況は不安材料ではない。ブエノスアイレスの資産運用会社ガイア・キャピタルのパートナーで顧客資金を7年間にわたりブラジルのヘッジファンドに投じてきたセサル・スタンヘ氏は「運用戦略の幅は比較的狭いが、非常に巧みな運用担当者が存在する。有能な人々と堅調な市場の組み合わせによって、素晴らしい成果が得られる」と強気だ。

0 件のコメント: