6月22日(ブルームバーグ):米ソーンバーグ・インターナショナル・バリュー・ファンドの運用担当者ウィリアム・フライズ氏は2010年の夏、投資先を探すためインドを訪れた。ムンバイとデリーの企業を訪問したフライズ氏は、停電に備えてバックアップ用のディーゼル発電機を企業が用意していることに気付いた。インドでは電力供給不足で停電が日常茶飯事だからだ。
これに注目したフライズ氏は4カ月後、国営石炭会社コール・インディアの35億ドル(約2800億円)規模の新規株式公開(IPO)に応募して同社株を購入した。インドでは発電量増加に伴い、主要燃料である石炭の販売が伸び、コール・インディアの業績を後押しすると判断したためだ。
この賭けは成功した。コール・インディア株は昨年10月25日に決まったIPO価格から今年5月31日までに67%上昇。10年10-12月(第4四半期)に10億ドル以上のIPOを実施した企業の中で値上がり率トップとなった。このランキングの14銘柄のうち11銘柄はリターンがプラスとなっている。ブルームバーグ・マーケッツ誌8月号が報じた。平均リターンはプラス15%。
フライズ氏はIPO後もコール・インディア株を買い続けた。コール・インディアの製品に対する需要は出てくると期待する同氏は、「インドは大幅な電力不足だ。今後10年で多数の発電所を建設するだろう」と予想する。
古い歴史
昨年第4四半期の新規公開株でリターンが好調な銘柄は主に、ベンチャー・キャピタリストではなく、政府が売却した歴史の古い商品関連企業だ。ランキング3位にはマレーシアの国営石油探査・生産会社からスピンオフ(分離・独立)されたペトロナス・ケミカルズ・グループが入った。同社株は5月末までに39%上昇した。同4位のオーストラリアの石炭輸送鉄道会社QRナショナルはクイーンズランド州政府が売却した。リターンはプラス35%。
株式相場の上昇を追い風に、世界のIPO総額は昨年第4四半期に1270億ドルに上り、09年全体を上回るペースとなった。米政府が部分所有していた2社も昨年第4四半期にIPOを実施した。米保険会社アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)のアジア部門であるAIAグループは香港に上場。40%近く値上がりし、同ランキング2位。一方、自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)は5月末時点でIPO価格に比べて3.6%下落している。同ランキングでIPO価格を5月末に割り込んでいたのはGMを含めて3銘柄だけだった。
人気沸騰
コール・インディアのIPOはインド史上最大規模だった。インドのシン政権は株式相場上昇の好機を利用し、国有資産売却計画の一環として石炭生産で世界最大の同社の株式を放出した。
インドの政府保有株式売却局のスーミット・ボス局長は「コール・インディアが政府保有株売却プログラムの中で人気案件になることは疑いなかったが、これほどの強い反応は予想していなかった」と語った。
コール・インディア株のIPOには投資家から少なくとも487億ドル相当の購入希望があり、応募倍率は14倍に上った。
昨年の株式資本市場の中心はアジア企業の株式発行だった。この事実はリターンランキングにも反映されており、半数はアジア企業だった。世界のIPOに占める米企業の割合は昨年、史上最低に落ち込んだ。
企業が選んだ株式上場先も東洋にシフトした。ドル換算ベースでみると、10年は香港と中国本土の証取への上場がIPO全体の45%を占めた。米国はわずか16%だった。06年までは米国と英国が新規公開株の上場先として最も人気が高く、計34%を占めていた。香港と中国本土は21%だった。
政府との関係
昨年第4四半期のIPOの活況はバンカーに朗報だったが、政府との関係から幾つかの取引で投資銀行の手数料が抑制された。コール・インディアの引き受け幹事を務めたシティグループやドイツ銀行、バンク・オブ・アメリカ(BOA)などが得た手数料は1%と、昨年の世界のIPOでの平均の3%をはるかに下回った。
シカゴ大学ブース・ビジネス・スクールのスティーブン・カプラン教授は、投資銀行が政府のご機嫌を取り重要案件に関わろうと競争していたためと分析する。「銀行は政府保有株の売却では大幅に手数料を引き下げていたようだ。極めて大規模な国有企業の案件を手掛ければ、引受業者ランキングで上位に立つとともに、今後の案件獲得に向けて宣伝することができるからだ」と同教授は語る。
昨年第4四半期に新規公開したインターネット関連株で規模が最大だったのはロシアのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)運営会社のMail.ru Group(メール・ドット・ルー・グループ)。5月末までの上昇率は24%と、ランキング5位で、米フェースブックなどのネット企業の公開をにらむ投資家には安心材料となるだろう。
ただ、メール・ドット・ルー株は公開から10週間後に高値を付けており、5月末時点では既にピークから20%強も値下がりしていた。ランキング上位にある政府支援の商品関連企業の方が好調な値動きが長続きしている。
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