2011年3月1日火曜日

COLUMN-〔ロイター為替コラム〕中東・北アフリカ情勢が有事のドル買いを引き出すのはこれから

 By Jeremy Boulton、Neal Kimberley
 [ロンドン 28日 ロイター] 中東・北アフリカ(MENA)地域の緊張に起因する質への逃避の動きは、米国債買いに反映されても、必ずしも米ドル押し上げにはつながらない。

 為替トレーダーはむしろ、MENA情勢で受ける影響が最も大きいのは米国で、したがって米国は事態収束に向けた国際的取り組みの先頭に立つに違いない、とみる傾向がある。1990年8月のイラクのクウェート侵攻では、それがよく表れた。ただ、今回は、米ドル買いを引き起こす可能性をはらむ重要な違いがある。

 1990年は、年末にかけ金とスイスフランが買われたが、これはドルが全般に売られるなかで起こった。それ以外にドイツマルクの上昇が最も顕著で、主要原油輸入国にもかかわらず円も買われた。
 為替市場は、MENA情勢が不安定になると米政府は国益の保護という観点から必ず、安定化に向けた外交、金融、そして必要なら軍事的にも主導的役割を担うとみていた。

 2011年に話を戻すと、当時と同じような要因が働いている。原油高が成長を脅かし、米金融緩和が維持されるとの見方から、ドルは対主要通貨バスケットで3カ月ぶりの低水準をつけた。

 安全性を求める為替投資家はスイスフラン、さらに円にシフトしている。

 今回、民主化圧力に直面しているMENAの政府は、多かれ少なかれ米政府とつながりがある。原油資源に乏しいバーレーンも、国内に米海軍の司令部があるという状況だ。

 イラクのクウェート侵攻は、多国籍軍の作戦により7カ月で終了、市場の不安を解いた。

 しかし、今回のように、民衆デモが市場を動揺させているとなると、政治的結果に対する不確実性がより大きいのは間違いない。市場の緊張は、広範囲なリスク回避の動きに発展し、トレーダーは米ドルなど流動性が最も高い安全資産に逃避する可能性がある。

 いまのところ、リスク回避ムードは限定的で、原油価格が少しでも下がるとリスクを取りに行く動きもみられる。

 トレーダーの中には、最近の下落はドルのロングポジションをとる機会とみている向きもいるようだ。

 ドル指数.DXYがそれを最も良く反映すると言えるが、取引の規模が少なく、流動性が高くない。指数に占めるウエートが58%以上のユーロをみてみると、ユーロ/ドルEUR=を現在の1.3800ドル台で売るのは強いリスク・リワード取引となり得る。

 ユーロ/ドルの2011年の高値は1.3858ドル(2月2日)、安値は1.2875ドル(1月10日)。1.4000ドルを上回る水準がストップとみられ、それを上抜けるとかなりのブルインパクトが生じる。

 MENA情勢緊迫化は、為替市場にリスク回避の高まりをもたらし得るが、株式市場も為替市場に影響を与えそうだ。

 勢いを失ったとはいえ、株式市場はいまだに買い優勢だ。株投資家を動揺させるのは、ダウ工業株30種.DJIが1万2000ドル割れ、日経平均.N225が1万円割れを起こした時だろう。
 それが起こった場合、投資資金はキャッシュに向かう可能性がある。米市場は最も高い流動性を持つことから、2008年の金融危機のように株式市場が下落に転じた場合に最大の恩恵を享受するはずだ。

 株式市場の下落を懸念するだけの理由はある。

 原油高は、世界成長の阻害要因である一方、すでに高まっているインフレ期待をさらに押し上げることが予想される。

 中東の緊張が長期化すればするほど、原油価格の高止まりも続き、成長やインフレへの影響も大きくなる。

 そうなると、ユーロ売り・ドル買いが利益をあげられるだろう。

 ユーロ/ドル弱気派が意識している、ユーロ安/ドル高につながる要因は株安以外にもある。その代表的なものはユーロ圏周辺国債券スプレッドの拡大だ。ユーロ圏の金利見通しやチャート分析上の強気サインを材料にしたユーロ/ドル上昇で無視されているが、こうしたネガティブ要因はユーロ・ロングが積み上がるにつれて、より重くのしかかってくるはずだ。米商品先物取引委員会(CFTC)の直近のIMM通貨先物の取組では、ユーロの買い越しが前週から40%以上増加した。

 中東、北アフリカ情勢不安によるリスク回避は、これまでのところドル押し上げに寄与していない。しかし、緊張の高まりに対するヘッジの根拠は十分ある。そうすることがユーロ圏周辺国問題に関するリスクヘッジになり、さらに維持不能な投機的リスクの高まりのリスクをヘッジすることにもなるだろう。

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