[東京 10日 ロイター] 柳沢伯夫・元厚生労働相(城西国際大学学長)は10日、ロイターのインタビューに応じ、社会保障の持続可能性と2020年度の基礎的財政収支黒字化目標を確保するには、現在の財政状況を踏まえると、現行5%の消費税率を15%程度に引き上げる必要性があると指摘した。
デフレ下での増税による経済への影響に配慮すれば、一気に2段階で引き上げるより、小刻みに段階的に引き上げることでインフレ効果も生まれ、デフレ対策になると述べた。他の選択肢も含め、参画する「社会保障改革に関する集中検討会議」で提言する考えを明らかにした。
インタビューの概要は以下の通り。
──05年の自民党財政改革研究会報告で「消費税の社会保障目的税化」を打ち出した。当時、政調会長代理として問題提起して以後、最近までの状況をどのように受け止めているか。
「当時、財政の問題が頭痛の種だった。研究会のテーマは財政問題だが、財政の最大のプレッシャーは社会保障分野で、財政健全化=社会保障の問題。これは今も同じだ。明確に社会保障の目的税としての消費税を打ち出し、それが社会保障の安定財源になると同時にプライマリーバランス(基礎的財政収支)の均衡回復に役立つことを検証しながら検討を進めた。明記はできなかったが、高齢者3経費(年金・介護・医療)と社会保障の機能強化で消費税率10%が透けて見える報告書をまとめた」
──その後、消費税率10%を提言した。
「(その後の報告書で安定的な社会保障制度構築には)少なくとも消費税率10%への引き上げが必要との報告書をまとめた。しかし、リーマン・ショック後に前提となる税収が、(リーマン・ショック前の)50兆円台から37兆円まで落ち込み、プライマリーバランスを同時に回復させることを目的とすると10%はもう崩壊している。今日では、10%以上が必要、15%程度が必要という状況になってきている」
──社会保障の持続可能性を維持し、同時に財政再建を確保するには、15%程度は必要ということか。
「今回はもう少し精緻(せいち)に考える必要がある。目的税にした場合の対象経費をどうとらえるかだ」
──子ども手当も対象とする考えか。
「『子ども手当』というと、(民主党がマニフェストで打ち出した)あのタイプの子ども手当の財源になるので、その言葉は使いたくない。育児や若年者の雇用など、どの範囲で取り込むのか考えなければならない。そうした試算はまだできていない」
──6月の成案では、消費税率の上げ幅と時期を明記すべきと。
「率については、プライマリーバランスの回復を考えるべきだ」
「時期については、気合いの問題。デフレ克服の課題とこの財政再建・社会保障安定化をどうからませるのかは考え方がいくつかある。
ひとつが、財政赤字が増えることには目をつぶって、デフレ克服のために財政・金融政策を出動し円安に誘導する。この3点セットを3年間行い、3年後に(引き上げを)スタートさせるという考え方。もうひとつが、デフレにあまり重荷にならないように小幅に、段階的に引き上げていく。そうすれば、かえってインフレ効果が生まれる。第3が、何年か先に5%ずつ引き上げる。しかしこれはデフレ効果がきつすぎ、経済が冷えきってしまう」
「個人的には、2番目の選択肢が現実論として良いと思う。実施スケジュールの選択肢は考えられるが、決断するのは総理。総理が不退転の決意でやらざるを得ないことだ」
──デフレ下では増税は難しいとの認識か。
「デフレ下でも、たとえば2%ずつ、1年おきに上げていくと、需要の強化に役立つ。デフレ対策にもなる」
──自民党は与野党協議には慎重だ。消費税の社会保障目的税化では一致しているが、安定財源を確保してバラマキと批判している子ども手当の財源となることを警戒する。増税しても財政再建につながらないリスクはないか。
「そうならないような設計をする」
──消費税率は15%程度への引き上げが必要との認識か。
「おおよそのメドとしてはそういうことだろう。ひとつは遅れたこと。リーマン・ショックで土台が下がったこと。この2つで5%近くのものが増えてしまった」
──格付け機関は政府の実行力を注視している。
「その通り。諸外国と違って、(最悪の財政状況でも)危機だと言われないのは唯一、(消費税の)上げ幅に余裕があるということと、不確かだが、政府として取り組む姿勢が評価され、かろうじて一人前のレーティングになっている。しかし、財政赤字はほとんど『クレージー』なレベルに達している。悠長なことを言っていられない」
──最近の長期金利上昇の受け止めは。
「米国の長期金利も上がり始めたので、米国が金融政策をどう運営するかにもよるだろう」
──自民党は「Xデープロジェクト」で、国債が暴落した場合の対処方針の検討を始めた。
「その感覚の方が正しい。そのぐらい(財政状況は)緊迫した問題だ」
──税・社会保障一体改革が実行されなければ、格付けは下がり、エコノミストはトリプル安を懸念する。
「私が集中検討会議に参加するのは、自民党政権がもう一度(政権に)復帰するまで待っている時間的余裕はないと思ったから。この1点だ。政府は少なくともスケジュールを明確に打ち出すべきだ」
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