2010年12月26日日曜日

激論!「日本経済は本当に破綻するのか」 細野真宏VS藤巻健史

週刊朝日 12月25日(土)16時5分配信

日本の借金は積もり積もって1千兆円近い。来年度の年金も減額されることになった。景気は? 消費税は? 社会保障はどうなる? 日本経済は破綻してしまうのか? ……次号から連載を開始する、経済に造詣が深い藤巻健史さんと細野真宏さんが徹底討論した。

藤巻健史(ふじまき・たけし) 1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを経て、現在は投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める。著書に『日本破綻 「その日」に備える資産防衛術』(朝日新聞出版)など。ブログは、http://www.fujimaki-japan.com/takeshi/

細野真宏(ほその・まさひろ) 『経済のニュースがよくわかる本』が経済本で日本初のミリオンセラーに。数学、経済、投資など累計700万部突破。一貫し「数学的思考力」と「金融・経済教育」の重要性を説く


細野 今の日本の問題は、あらゆるニュースを悲観的に捉えてしまうこと。よくよく考えてみたらそれほど悪くないニュースであったとしても、閉塞感があるので、雰囲気で自然と思考が暗い方向に向かってしまう。様々なニュースを断片的に見るのではなく、それが何を意味しているのか総合的に冷静に捉える数学的な思考法が必要不可欠な状況なんだと思います。

藤巻 でも残念ながら、僕は現在の経済状況に関しては悲観的なんです。希望と分析は違う。むしろ楽観論ではいけないと思っています。遅かれ早かれ、日本は破綻する。ただ一度クラッシュした後に大復活をするとは思います。10年後の日本はすごく明るいでしょう。そういう意味では閉塞感を持つ必要はない。今やるべきことは、大復活の前の破綻に備えてどういう保険をかけておくか。あまり楽観的でいると、そのクラッシュを乗り切れない。

細野 10年後の日本がどうなるかは、これから1、2年の国民の理解度によると思います。「消費税が上がると景気が悪くなる」という誤解があります。これは「未納が増えると年金が破綻する」というのと同じ「ひっかけ問題」。消費税を上げると景気が悪くなるのではなく、消費税を上げない限り景気はよくならない。
 なぜなら、例えばこのままの状態が続くと財政破綻の心配がますます強くなり、国民の将来の不安は強まり続けます。しかも、このまま財源不足が続くと、社会保障も維持できなくなり、さらに将来不安が大きくなり続けます。日本の財政悪化の本質は、日本の年齢構成が変化し、高齢化率が世界一高い社会になったからです。社会保障のために消費税を上げ、医療や介護、年金、保育の分野に資金が回るようにし、国民の安心が得られる状態にしない限り、財政に対しても、社会保障に対しても、国民の将来不安は消えない。つまり、このままの状態では、個人金融資産が1450兆円もあっても将来が不安で使えないという状態がずっと続いていくわけです。

藤巻 消費税を上げれば景気がよくなるのか、悪くなるのか、僕にはわかりません。ただ、今や消費税を5%程度上げただけでは破綻が避けられないほど財政が悪化している、とは言えます。時すでに遅し、です。なにしろ、税収よりはるかに大きい額を長年支出してきたからです。最近は特にそれが加速している。
 家計でもそうですが、収入以上に目いっぱいカネを使っていれば破綻するのは当たり前です。日本はバブル崩壊以後、財政出動をして30兆、40兆円もの巨大赤字を毎年のように積み上げ続けた。そして累積赤字が今年度末には973兆円にもなるわけです。1年に10兆円ずつ返しても完済に100年かかるんですよ。今年度予算での税収が37兆円、税外収入をあわせても48兆円ですから、10兆円返すためには38兆円しか使っちゃいけないところを、92兆円も使っている。それでは100年かかっても返せっこない。
 さらなる問題は、今は金利がゼロだからいいけれど、5%に上がったら、金利の支払いだけで、いずれ50兆円に達してしまうということです。税収はバブルの絶頂期だった1990年度でも60兆円でした。このときは消費税は3%でしたが、5%だったとしても65兆円でしょう。それなのに50兆の金利支払いがあったとしたら、財政は破綻するのに決まっています。

細野 僕は今の日本の一番の問題は、思考停止だと思います。実は2008年末までに社会保障国民会議という、日本医師会、経団連、連合などが参加した総理直轄の有識者会議で、これからの「あるべき社会保障の像」について徹底的に議論をし、精緻なシミュレーションもやって、すでに議論の段階は終わっていたわけです。
 ところが民主党が「予算を組み替えれば簡単に10兆、20兆すぐ出てくる」といった勘違いを国民に広めてしまったため、この2年間は思考停止状態が続き、まったく状況が変わらず、閉塞感だけが漂っていたわけです。ようやく菅首相とその周囲は予算を組んで現実が見えてきて、「2011年の6月までには消費税をいくら上げるかを決める」というところまできた。当初は「政権交代からの4年間は消費税の議論すらしない」と言っていたことを考えれば、随分な進歩ですよね。要は、何党が与党になろうが、実は選択の余地はほとんどなく、日本が進むべき道は2008年末の段階で決まっていたんです。

藤巻 そのとおりで、「事業仕分け」でも無駄が省けなかったから、この数年間は埋蔵金でなんとかやりくりしてきた。しかし、今や埋蔵金ではなく埋蔵“借”金です。巨額の赤字があっても、今は景気が悪く金利が低いので、なんとか予算を組めていますが、景気がよくなったら間違いなく破綻します。景気がよくなればお金を借りる人が多くなり、金利が上がるからです。

◆国の借金はゼロにする必要なし◆

 ところで、巨額の借金を返すために、孫子の代までただただ働くのか? なにせ10兆円ずつ返しても100年かかるのですから。それとも我々の世代でつくってしまった借金だから我々が責任をもってきれいにして、きれいな日本を孫子に渡すのか? 徳政令で借金棒引きにするのも一法ですが、これはあまりに過激で、銀行などがつぶれてしまうからだめです。残るはハイパーインフレしかない。だが政治的には許容できない。唯一残されているのは、マーケットが反乱してハイパーインフレになるというシナリオです。国債の入札で応札額が募集額に届かない、つまり未達が起きて、株と債券と円が大暴落する。
 でも円が大暴落すれば、不幸中の幸いがある。日本はそれを武器に輸出を伸ばせるわ、工場が日本に戻ってきて仕事が増えるわで、10年後には大回復することができるのです。今の韓国がそうです。97年の通貨危機で通貨ウォンの価値が3分の1になった。それで大回復した。

細野 藤巻さんの論で一つ申し上げておきたいのは、藤巻さんの前提は「国の借金をゼロにするには」ということですが、個人の借金の場合とは違って、国の借金についてはゼロにしなくちゃいけないというわけではないですよね。会社と同じように国家も長く存続していくものなので、借金があること自体が問題ではなくて、要は、借金をしながら回していければいいわけですよね。財政破綻が起きるのは貸手がいなくなるからで、1998年のロシアを例に挙げると、短期国債の利率が172%という、とんでもない金利になっていた。そこまでいってデフォルト、破綻ということになる。
 日本は2010年6月に「財政運営戦略」というスキームを作って、2015年度までにプライマリーバランスの赤字を半減し、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化させる、という枠の中で予算を組むことを決めています。消費税を安定的に上げていくことなどによって、雪だるま式に増えていた借金を一定ラインで落ち着けることができれば、持続的に回していけるわけで、必ず破綻するというわけではないと思います。これは、冒頭でお話ししたように、「これから1、2年の国民の理解度による」という話が大いに関係あるわけですが。

藤巻 僕は、国家は原則、借金をしてはいけないと思っています。借金をして、それを元手に利益を生もうという企業とは違うのです。国家が、例えば借金をして橋を造るのなら、その橋が老朽化するまでにその借金を返済しておかなければなりません。そうしないと、建て替え用の借金がその上に積み重なってしまうからです。残念ながら日本国の借金は巨大化してしまった。

◆5%の金利変動は珍しくない◆

 プライマリーバランスというのは国債の元利払いを除いた話です。プライマリーバランスを達成したところで、金利が上がって5%になったときに発生する金利50兆円の支払いをどうするのかということです。累積赤字が100兆円、200兆円ならプライマリーバランスを達成することに意味はあるけれど、973兆円の元本があると別の話です。今の日本は480万円の年収の人が毎年920万円使っている。そして、すでに借金は9730万円に膨れあがっているのと同じ状態です。収入を600万円に上げ、金利支払いと元本返済以外の支出を600万円に抑えたとしましょう。600万円の収入に対し600万円の支出ですから、プライマリーバランスが達成できたのです。このとき借金総額が100万円といった少額なら将来に望みがあります。しかし、借金はすでに9730万円もあるのです。金利が5%になれば金利支払いは約500万円です。600万円の給料ではまったく追いつかない。1100万円の収入にしないと、借金はぐいぐい増えていってしまうのです。
 ちなみに1100万円の収入では借金は増えなくても元本は減りません。人生、借金を返すためだけに働くのです。プライマリーバランスを達成しても、何にも解決にならないことがおわかりかと思います。

細野 国の財政破綻の話は2段階で考える必要があるわけですよね。まずは「国の仕事を毎年の税収の中でやりくりできるようにする」というプライマリーバランスの話。そして、もう一つは、借金の金利の話ですよね。国の借金というのは、対GDP比、経済規模との比較で考えるもの。つまり、国の借金が雪だるま式に増え続けないようにするには、プライマリーバランスの黒字化と同時に、借金の金利以上に経済成長をする必要があるわけですよね。これは、なかなかハードルが高いと思います。だからこそ、政治を中心とした今のような思考停止が続いている状態は問題だと思っています。

藤巻 5%の金利って珍しいことでもなんでもない。今の政策金利0~0・1%も異常金利ですが、僕がディーラーになった80年には、今の政策金利に相当する金利は12・75%でした。そう考えれば今から金利が5%上がるのは、決して想定外の話ではない。金利の支払いだけで税収がすべて消えてしまう可能性がある。そのときにどうやって公務員の給料を払うの?っていう話です。毎年40兆、50兆の国債が新たに発行されてきたわけですが、これは個人がお金を銀行に預けて、そのお金で金融機関が国債を買っているからできる話です。つまり個人金融資産が増えないと、新たに国債を買うお金が出てこないわけです。
 ところが個人資産は10年ほど前の1400兆円から50兆円しか増えていない。最低でも毎年100兆円ぐらい個人資産が増えていないと、毎年新たに発行する40兆から50兆の国債を吸収できないはず。じゃあ、お金はどこからやってきたのか。これまでは金融機関が貸付金を引っぺがして、そのお金で国債を買っていた。でもそのお金ももうない。だから危ない、国債が売れない可能性があるというのです。

細野 確かに日本は世界一の借金国ではありますが、ここで押さえておきたいのは、そもそも、その973兆円の借金はどこへ行っているのかという点です。消えてなくなっているという誤解があると思うんです。例えば公共事業などで使われたお金は、民間の企業に発注され、最終的にそこで働く人々の給与や株主の配当になって個人に回っている。つまり基本的に国の借金というのは個人金融資産になっているという面があるわけです。しかも、日本は経常黒字の国なので、国内のお金は増え続けてもいるんですよね。

藤巻 でも、毎年40兆~50兆円新たに発行される国債を買うほどには増えていない。これは新規の借金なんですから。だから、国がいつまで借金をし続けられるのか心配なのです。そこで、為替について一言、言っておきたい。80年と比べると、米ドルに対する通貨の価値が中国の人民元で4分の1ぐらい、ウォンでも2分の1になっている。それに比べて円は3倍。だから日本は、これらの国々に比べてダメなんです。景気が悪くなったら通貨を安くして国際競争力を増やさなければいけないのに、円高にして競争力をそいできた。
 もし円が今、1ドル=240円になったら、輸出もよくなるし、工場は国内に戻ってくるから仕事も増える。工場の周りの商店街やレストランも栄える。観光客もたくさん来る。こうして景気もよくなるから、年金問題もなくなるし、財政赤字もなくなる。それなのに、みな為替は動かせないと思っている。動かすのは簡単です。外貨建て商品の利益にかかる税金をゼロにすればいい。1450兆円の個人資産のうち10%動けば145兆円。これだけの円売りがあれば、かなりの円安になる。ポイントは1450兆円をどうやって海外に向けるか。そうすれば円安になり景気もよくなり財政出動する必要もなかった。

◆国にできることは高が知れてる◆

細野 最後に消費税増税についても誤解が多いと思うのですが、実は2009年に成立した改正所得税法で消費税は社会保障の目的税化しているんです。つまり、これから消費税の増税分は、すべて国を通して私たちの社会保障に回っていくことが決まっているわけです。もっと具体的に言うと、医療や介護や保育で働く人の給与となったり、私たちの年金になるわけです。
 例えば消費税2%分で5兆円の財源が生まれます。これは160万人の給与分に相当し、これだけ雇用が増えれば、現在5%台の失業率は2・8%程度にまで低下するという試算もできるわけです。消費税の増税というのは、社会保障の安定とともに雇用の創出も行うわけで、国民の金融資産がそのまま国民の金融資産に向かっていくだけの話なんです。
 そして、私たちは必要に応じて医療や介護や保育といった社会保障のサービスを安価で受けることもできるようになるわけです。日本は「お金がないから景気が悪い」というわけではなく、お金はそこそこ持っているのに、「漠とした将来不安があって、使えないから景気が悪い」という状況。消費税を上げるのは実は「家計から家計への新しいお金の流れをつくる」ことで、私たちの過剰な将来不安が解消されていく、という話なんです。

藤巻 いずれにせよ、今は政府に頼っちゃいけない。カネがなければ政府は何もできない。アメリカ人的に「自分のものは自分で守る」という認識をもたないと、人生も財産も失ってしまう。

細野 その点は賛成です。「政権交代すれば景気がよくなる」というのが「ひっかけ問題」であったのは、まさにそこが本質です。藤巻さんの仰るとおり、財源がなければ、国にできることなんて高が知れているわけです。多くの人は「少なくとも今ぐらいの社会保障は維持してほしい」と考えていると思います。そろそろ「無駄の削減」と「社会保障のための消費税のアップ」は両立できるものだという話に気付くべきタイミングなんだと思います。そこに早く気付かないと、藤巻さんの仰るような財政破綻ということまで視野に入れざるを得ない状況になってしまいますから。

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