サーチナ 12月26日(日)11時44分配信
丸紅経済研究所代表の柴田明夫氏に、2011年の金価格の行方とともに、コモディティ市場を展望してもらった。柴田氏は、現在の米国の金融緩和が簡単に引き締めに向かわないこと、また、新興国の旺盛な需要などから、金価格をはじめとしたコモディティ価格の上昇は終わらないと見ている。
――金価格の高騰は続くのか?
2009年後半から資源価格は、急速に戻りつつあって、世界経済の予想以上の回復ペースを移している。特に原油が30ドル近辺から70ドル台に回復し、すでに1年以上にわたって70ドル-80ドルで安定している。資源の代表である原油が、90年代の20ドル弱から比べると、4倍のところで安定している。これにともなって、相対価格の調整が進んでいる。コモディティ価格の全体のバランスが、原油に合わせるというイメージだ。
金は、必ずしも原油のように4倍ではない。90年代の前半に原油と金がバランスしていたときは、原油価格は20ドル弱に対して金の価格比は20倍くらいだった。ところが、90年代後半に金の価格の大暴落があって、400ドルから250ドルまで下げてくる過程で、原油の値段は変わらずに20ドル程度だったので、原油と金の価格比は10倍程度にまでなった。それが今、2000年代に入って、もとのレベルに戻りつつある。現在、原油価格が85ドルとすると、20倍で1600-1700ドルという金の値段がみえる。
金の値段については、昨年10月に1000ドルを超えてからは、未知の世界であって価格の理論値などはなくなっている。そこで、ひとつの目安として金と原油の価格比を見てみると、このようなことがいえる。
2010年夏以降の金価格の上昇は、米国の金融緩和、FRBの金融緩和が大きい。ギリシア問題が出て、アメリカの経済自体も住宅減税、自動車減税などの政策効果が剥げ落ちてくると、結局経済の実態が悪化し始めた。特に雇用環境が改善せず、住宅市場も再び悪化してきたので、米国の出口戦略はなくなった。また、デフレの問題から脱却するために、追加の金融緩和政策をとってきた。景気が良くなるまではゼロ近辺の金利を維持していく。基軸通貨ドルの金融の一段お緩和を受けて、流動性インフレで金を買う余地が出てきている。
世界全体をみても、ヨーロッパのソブリンリスク、南欧州諸国の財政問題は長引く。世界的なソブリンリスク問題が出てきて、それに対する安全資産の逃避先としての金が注目されてきている。
金の需給をみても、需要は新興国の台頭。中国もインドも金の需要は伸びている。インドは、今年も9%近い成長を遂げている。1000ドルを超える金の現物でも着実に需要が出てきている。中国も国家として金の外貨準備を増やしていく。これは、インド、ロシアも同じ。また、金ETFも引き続き資金を集めている。金は強い材料ばかりだ。
ただ、勢いが強いので、ちょっとした金利の引き上げなどで、いったんは大きく下がるという局面もありうる。それでも、下げたら新たな買いが入るということで、来年は、1600ドル程度にはいきそうな感じがしている。
――金以外での注目コモディティは?
原油と穀物、銅地金には、上値がありそうだ。
原油は、再び100ドル台に乗せてきそうだ。前回、2008年の年明けの100ドル乗せは、7月に150ドルに迫るところまで値上がりした。今回は、このような上昇はないと思う。2008年当時はその後のリーマン・ショックで暴落したのだが、現在は、70-80ドル台で下値が固まっている。これをベースにして、じわじわとレンジ相場の上限を上抜けてきている。これは、産油国と消費国が折り合いながら、原油の上昇を容認するような動きに感じられる。先進国の原油需要は頭打ち、または、マイナス傾向なのだが、BRICsをはじめとした新興国需要が押し上げている。一方で、先進国の在庫は過去最高レベルにあるので、原油の供給面に不安感は少ない。世界の石油需要の伸びに応じた、緩やかな上昇になるだろう。
穀物は、基本的には原油価格が4倍になった影響を生産コスト面で受けてくる。近代農業は燃料代、化学肥料代、飼料代、農薬代など、これらは原油と関連している。特に中国など、賃金の上昇と農業資材の投入コストの上昇、海外を含めた農産物価格の上昇によって、食品価格が2桁に上昇している。また、中国では需要増で輸入が増えている。2010年は、大豆を5700万トン輸入した。トウモロコシも130万トン輸入して、いよいよ、中国がトウモロコシの輸入国に転換するのではないかと注目されている。
そうなると、トウモロコシはアメリカが世界の生産の40%以上を占め、貿易量の6割を占める国。そのアメリカの国内ではトウモロコシのエタノール需要が増えていて、11月の農務省の見通しでも4割近くがエタノールに使われ、この比率は毎年増えている。これは、2007年12月にブッシュ大統領のときに成立したエネルギー安全保障法というのが利いている。脱中東、脱石油のなかで、エタノールを増やしている。この結果、米国のトウモロコシ輸出余力が低下する。中国が輸入国になると、アメリカくらいしか輸出できる国はないので、供給面に不安がある。
すでに、トウモロコシの2011年7月末の在庫は6.2%に下がる見通し。大豆は5.5%。これは綱渡りの状況。6%の在庫は端境期には1粒もなくなってしまうくらいの状況。供給に少しでも懸念が出てくれば、投機マネーが大暴れしそうな、乾ききったマーケットになっている。
銅は、中国にインフラ整備で大量の需要が見込まれる。2020年に向けて、中国は高速鉄道の整備を進める。50万人都市を新幹線で結ぶという計画を進めている。そこに合わせて電力開発が進む。これによって高圧電線の需要が膨らんでいる。
また、モータリゼーションで、中国の自動車販売台数は、2010年に1800万台とういう数字が出てきている。2011年は2000万台という予測もある。それでも1000人あたりの自動車保有台数が40台に満たない。さらに来年は電気自動車が量産体制に入る。銅をはじめとするレアメタル、レアアースの需要が一気に拡大する。
アルミの資源は多いのだが、銅は鉱山の品位が下がってきている問題がある。需要が旺盛なために枯渇の問題が浮上している。チリにある世界最大の銅鉱山の品位が1%程度だったのが、0.5%くらいに下がってきている。環境コストも価格に反映させられ始めた。銅の価格は8800ドル台をつけているが、来年は1万ドルもありえる。資源価格が上がることによって、省エネ・省資源、新エネルギーなどの開発が促されてくるが、新エネルギーの開発スピードが遅くなれば、従来型のコモディティの相場は上がっていくという図式が継続する見通しだ。
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