[ロンドン 19日 ロイター] ドイツ政府は19日、一部金融商品について現物手当てのない空売り(ネーキッド・ショート・セリング)の一時的禁止措置を導入した。発表を受けてユーロと欧州株は下落し、市場の流動性への懸念が生じている。
独連邦金融サービス監督庁(BAFin)は、規制導入の理由を「ユーロ圏の国債に極めて大きな振れが見られるため」と説明。大規模な空売りは金融システムの安定に脅威となりかねないとしている。
<規制対象は?>
ドイツ政府は、ドイツ主要金融機関10社の株式とユーロ圏の国債について現物手当てのない空売りを禁止。ユーロ圏政府債に関連したクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)についても現物手当てのない取引を禁止した。
期間は5月19日から2011年3月31日まで。
<目的は?>
大量の売り持ちは通常、証券価格を押し下げる。今回の規制はギリシャ、ポルトガル、スペインなどユーロ圏周辺国経済に対する圧力を緩和することが目的とみられている。
欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)はギリシャに対する総額1100億ユーロ(1370億ドル)の緊急融資策をまとめた。ただ、一部のアナリストは、金融市場でまだ認識されていない隠された問題を回避することが今回の規制の狙いである可能性に懸念を示している。
アナリストは空売り規制がうまく機能するかどうかは不明だとし、他国の金融センターがドイツと同様の規制を導入しない場合、ドイツにとって規制が裏目に出る可能性があると指摘する。
<市場の流動性への影響とその理由は?>
ドイツの単独規制によって他国も同様の規制を導入する可能性が懸念され、市場の流動性に影響が出ている。
マークイットは、不透明感によってCDS市場の流動性が低く、ボラティリティが高くなっていると指摘。また、周辺国へのエクスポージャーを持つ企業や金融機関が特にアンダーパフォームしていることに触れ、「周辺国のソブリン債デフォルトへの警戒感が高まっていることを示唆している」との見方を示した。
投資家は、市場のボラティリティがかなり高い局面で、リスク資産のポジションを減らす傾向にある。
<規制対象が全体に占める割合は?>
規制が適用されるのは、BAFinの監督下にある金融機関だが、国外支店は含まれない。
アナリストやトレーダーは、空売りの大半はニューヨーク市場とロンドン市場で行われているとし、そのうち現物手当てのない取引が占める割合を数値化するのは困難だとみている。
データ・エクスプローラーズによると、現物手当てのない空売りが禁止された10機関の株式のうち、投資家が大量の売りポジションを保有しているのはコメルツ銀行(CBKG.DE: 株価, 企業情報, レポート)株のみ。コメルツ銀行では空売りのため貸し出された株の発行済み株式全体に占める比率が17日の取引終了時点で5.1%に達していた。この比率はドイツ銀行(DBKGn.DE: 株価, 企業情報, レポート)では1%にとどまり、他の8行は2%以下だった。
<規制がユーロ圏周辺国債とソブリンCDSへの圧力を緩和する可能性は?>
19日のCDS市場では、ギリシャ10年債GR10YT=RRの独連邦10年債EU10YT=RRに対する利回りスプレッドが拡大したが、このトレンドが持続する、あるいは空売り規制が要因になると予想されているわけではない。
欧州市場の混乱で投資家が安全な投資先を求めるなか、米国債が独連邦債をアウトパフォームした。これがより持続的な流れとなる可能性がある。
アナリストは、債券や株式を空売りできないと知った投資家がユーロを欧州資産の下落を見込んだ投資対象とみなすとし、空売り規制でユーロ相場も圧迫されていると指摘する。
ユーロEUR=は19日、対ドルで4年ぶり安値を更新。欧州株.FTEU3は2.95%安となり、ドイツの金融株は軒並み売られた。
<市場の反応はどのくらい続くか?>
ノムラの債券ストラテジスト、ショーン・マローニー氏は、規制によって投資家は独連邦債を買って周辺国の国債を売るというヘッジができなくなるため、規制は中長期的に独連邦債にとって悪材料となるだろうと語る。
流動性と相場への規制の影響もまた、他の国、さらにはどの国がドイツと同様の規制を導入するかにかかっている。ロンドンやニューヨークなど大規模な金融センターがドイツと異なるルールを採用した場合、空売り規制を回避する道が残ることになる。
<投資家は規制をいかに回避できるか?>
トレーダーと投資家が空売り規制を受けて、ドイツ当局の規制に抵触することなく、どのような行動に出るかについては、以下を含む多くの見解がある。
1)ユーロ圏内の国債とソブリンCDSの売り持ちを規制対象外のニューヨーク市場とロンドン市場で継続。
2)ドイツの金融機関のCDSあるいはiTraxx MainなどのCDS指数に投資。
3)フランクフルト株式市場に上場されているファンドを売却し、金融以外のドイツ株を購入。輸出関連株はユーロ安の恩恵を受ける可能性が高いため。
4)欧州の銀行株など規制対象と関連した資産を売却。
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