5月12日13時15分配信 ウォール・ストリート・ジャーナル
米連邦検察当局は、モルガン・スタンレーが住宅ローン関連のデリバティブ取引で投資家を欺いたかどうか捜査している。このデリバティブはモルガン・スタンレーが組成に関与しており、同行はデリバティブの価値を下落させる取引も行っていた。関係筋が明らかにした。
モルガン・スタンレーが組成したのは債務担保証券(CDO)。トレーダーによると、同行のトレーディング部門は折に触れ、販売したCDOの価値が下落する取引を行っていたという。同行が自らの役割を正しく説明していたかどうかが当局の捜査の焦点という。
関係筋によると、当局が捜査している商品の中に、ジェームズ・ブキャナンとアンドリュー・ジャクソンの2人の歴代大統領の名を付したものがある。モルガン・スタンレーはこれらの商品設計を支援し、価値が下落する取引を行った。しかし、顧客への販売には関わっていない。これらは「デッド・プレジデンツ」取引と呼ばれた。
06年半ばに作られたジャクソンCDOとブキャナンCDOは、実質的には住宅ローンや商業不動産ローンを担保とする数十種の証券のパフォーマンスを映すデリバティブのポートフォリオだ。引き受けと販売を担当したのはシティグループとUBSだ。
モルガン・スタンレーの広報担当者は「ウォール・ストリート・ジャーナルが指摘する取引について、司法省から連絡はない。これらの取引に関する司法省の捜査については、われわれは関知していない」と述べた。
マンハッタンの連邦検事当局とSECの報道官はコメントを拒否した。
シティグループの広報担当者は、特定の取引についてコメントしない、と述べた。シティはこれより前、サブプライム住宅ローン市場における同行の動向に関する証券取引委員会(SEC)やその他の政府機関の調査に協力している、と表明している。UBSは今月発表した四半期ベースの財務アップデートで、住宅ローン証券に関する「政府の数多くの質問や調査に応じている」と明らかにした。
組み込まれた住宅ローン証券に対する強気の投資家のエクスポージャーを拡大し得るストラクチャーが「デッド・プレジデンツ」CDOの特徴の一つだった。住宅ローン証券の価値が下落すれば、強気の投資家が損失を被る可能性が高まるということだ。
一方、複数のトレーダーによると、「デッド・プレジデンツ」取引で弱気のポジションを取ったモルガン・スタンレーのトレーダーは利益を得た。ただ、利益の額については特定されていない。
モルガン・スタンレーに対する当局の捜査は予備的な段階にある。金融大手の複雑な取引を刑事告発するのは至難の業だ。会社や社員が故意に投資家を欺いたことを政府は合理的な疑いを残さない程度に立証する必要があるのだ。政府は数多くの犯罪捜査に着手するものの、起訴に持ち込めずに終わる場合が多い。
モルガン・スタンレーは、CDO市場における最大手のプレーヤー集団には含まれない。関係筋によると、同行は「デッド・プレジデンツ」取引では利益を得た。しかし、2007年の強気の住宅ローン取引で発生した90億ドルの損失に比べれば、利益は微々たるものだ。
関係筋によると、この捜査は、SECが09年に着手し、現在も続いている十数行の大手金融機関の住宅ローン証券事業に関する詐欺の捜査の一環だ。一方、マンハッタンの米連邦検事当局は、金融大手の一部について刑事捜査も行っている。
本紙は先に、当局がゴールドマン、あるいはゴールドマンの従業員が住宅ローン取引に関連する証券詐欺に関与したかどうか捜査していると報じた。先月、証券取引委員会(SEC)は、同社を民事提訴した。ゴールドマンは詐欺の事実を否定したが、関係筋によると、最近になって政府と和解交渉を開始した。
ゴールドマンとモルガン・スタンレーのいずれの場合も、当局は投資家に適切な説明が行われたかどうかを捜査している。
こうした刑事・民事捜査の背景には、金融危機の発生以前に顧客と反対のポジションを取ることで利益を得た大手金融機関に対し、政府が圧力を強めている事実がある。さらに、こうした捜査は、金融市場の規制強化をめぐるワシントンの議論を方向付ける可能性がある。
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