3月5日(ブルームバーグ):日本格付研究所の内海孚社長はブルームバーグ・ニュースのインタビューで、日本銀行の先月の追加緩和を「あり地獄」に例えて、「日銀は自らを動きの取れない方向に追い込んでいる」と述べた。その上で、財政規律喪失や国債市場のバブル化と崩壊など、将来大きな禍根を残す可能性があるとの見方を示した。
内海氏は1989-91年に大蔵省(現財務省)の財務官を務め、国際金融情報センター理事長を経て現職。1日行ったインタビューで「白川方明総裁はバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長と金融緩和競争をやっているか、単に追随しているようなものだ。バーナンキ議長が何をやっているかみれば、日銀が何をやるか分かると海外の人も言い始めている」と語る。
その上で「今回の決定で円安・株高となり、短期的には成功したと思うし、それはそれで結構だが、中長期的には非常に大きな問題を残すことになる」と指摘。「日銀が国債を買っていれば財政赤字はどうにかなるではないか、ということで、財政規律は当然緩む。日銀はどんどんあり地獄に入っているように私には見える」という。
FRBは1月25日、長期的な物価目標として2%の物価上昇率を明示。これを受けて、日銀にデフレ脱却へのより強い姿勢を求める声が高まった。日銀は先月14日の金融政策決定会合で、当面、消費者物価指数(CPI)の前年比で1%を目指し、それが見通せるようになるまで強力に金融緩和を推進していくと表明。その具体的な手段として、新たに10兆円の長期国債を買い入れることを決定した。
進むも地獄、退くも地獄
日銀が2001年3月の量的緩和の一環として長期国債の購入を始めて10数年経つ。購入額は当初、月4000億円、年4.8兆円にすぎなかったが、現在は月3.3兆円、年40兆円に膨れ上がっている。内海氏は「日銀は緊急措置として非伝統的な政策の先鞭(せんべん)をつけたが、かくも長く続けたため、やめることができなくなった」と語る。
さらに「中央銀行が長期金利に介入して長期金利が低く抑えられると、金融機関にとって収益の源泉であるスプレッド(金利差)が縮小するので、金融機関には非伝統的な手段は早くやめてもらいたいという気持ちがあったと思う」と指摘。しかし「ここまで来ると日銀が買い入れをやめると国債が下落して膨大な評価損が発生するので、続けられても地獄、やめられても地獄という状態になっている」という。
消費税率引き上げをめぐる論戦が続く国会では、景気の停滞と物価の下落が長く続いていることに対し、日銀へのいら立ちの声が強まっている。白川総裁は連日のように国会に呼ばれ答弁に立たされているが、NHKで全国中継された2月7日の参院予算委員会では、やじが乱れ飛び、答弁をいったん中断せざるを得ないほどだった。
かたくなな組織が日本には必要だが
内海氏は「日銀法改正で独立性を強めたにもかかわらず、なかなか独立性が強まったとは思えない。独立性だけが正しいと言っているわけではないが、どこか頑固なくらい則(のり)を守ろうとする組織が日本には必要だし、それがあるとすれば日銀だと思うが、今は政治家のペースに巻き込まれ過ぎている」と語る。
先進国で最悪と言われる日本の財政状況。それにもかかわらず、長期金利は1%を下回る水準で推移しており、日銀の国債購入に追随するように、民間金融機関も国債保有額を膨らませ続けている。日銀が先月29日発表した民間金融機関の資産・負債によると、1月末の国内銀行の国債保有高は166.7兆円と過去最高を記録した。
内海氏は「国際的に発言が注目される人たちの間から、何となく日本売りみたいな雰囲気が出てきている。国債のバブル崩壊だけが単独で来るのではなく、その時は円安・株安・債券安のトリプル安という形で日本売りになる」と語る。原子力発電の代替で石油と天然ガスへの依存度は非常に高まっている。「今までは円高恐怖論ばかりだったが、ついこの間1ドル=120円だったことがあるわけで、今120円になったらエネルギーコストの上昇で大変なことになる」と話す。
次の標的が日本だったら
内海氏は一方で、現在最大のリスク要因とされている欧州ソブリン問題については、鎮静化に向けて「一歩一歩進んでいる」と評価する。その上で「ユーロ圏に対する市場の攻撃が少し収まってきて、次の標的はどこかというとき、それが日本だった時に政策的に取れる手段はない。その時が一番怖い」と危機感を示す。
消費税をめぐる国会論争も混迷を深めている。内海氏は「消費税率引き上げがうまくいかないことが分かり、日本の財政には救いがない、深刻化する一方だというイメージが広がった時の怖さを想像したらよい」と指摘する。「租税収入が歳入全体の50%にもならないという財政状態なのは、世界の先進国ではどこにもないのだから」という。
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