2月8日(ブルームバーグ):「エマージングマーケット(新興市場)」という言葉の生みの親であるアントワーヌ・バンアグトメール氏は1970年代後半にアジアを旅行していた時、至るところに投資に値する企業があると確信した。世界銀行グループの国際金融公社(IFC)に在籍中の81年に「第3世界の株式投資信託」という名称を米投資銀行のソロモン・ブラザーズに提示したものの、「こんなファンドは決して売れないと言われた」という。
「彼らが望んだのはもっと気持ちの高揚する名前だった。エマージングという言葉を考え出したのはこういう経緯からだ」とバンアグトメール氏は説明する。ブルームバーグ・マーケッツ誌3月号が伝えた。
同氏は新興市場と一般に呼ばれるようになった今でも同市場への強気の見方を崩していない。現在は米バージニア州アーリントンにあるアシュモアEMMで新興市場株の74億ドル(約5700億円)の運用に携わる同氏は、「グループとしては、歴史的にも相対的にも過去25年間と同様に今も魅力がある」と語る。特に注目しているのは中国と中東の企業の株式だ。
フロンティア市場
これはブルームバーグ・マーケッツが初めてまとめた投資家にとって最も有望な新興市場とフロンティア市場の番付上位に合致する。国内総生産(GDP)予想やビジネスのしやすさなど、投資環境を判断する12以上の評価基準に基づいてまとめた同番付では中国が首位で、タイ、ペルー、チリが続いた。
大半の投資家には市場規模が小さく流動性が低いと指数算出会社が見なすフロンティア市場の番付では、ベトナムが首位で、アラブ首長国連邦(UAE)が2位。3位はブルガリアとルーマニアだった。
国際通貨基金(IMF)は中国経済が今後5年減速すると予測しているものの、経済規模で世界2位の中国は投資家の注目を集めている。IMFの昨年9月の予測によれば、中国の成長率はしばらく年10%を超えた後、2012-16年は平均9.4%に鈍化する見通し。それでも今回の番付に入った国では最も高い成長率だ。中国の政府債務はGDP比16%と低い上に、株式相場に割安感があることが有望な新興市場の番付で首位に立った要因だ。
いわゆるBRIC諸国の残り3カ国は芳しくなく、ロシアは8位で、インドとブラジルは上位10位内に入らなかった。
インドのインフレ
インドは15位にとどまった。消費者物価が高騰したのに加え、インド株式市場の株価収益率(PER)が年末時点で14.1倍と、MSCI新興市場指数の10.6倍に比較して割高感があることが響いた。
ブラジルは16位。7-9月(第3四半期)の前期比経済成長率は2年余りで初めてマイナスとなった。商品価格の下落で輸出収入が落ち込み、欧州の債務危機で企業景況感も悪化した。
ゴールドマン・サックス・グループのアセットマネジメント部門会長で、10年前にBRICという言葉を生み出したジム・オニール氏は「各国は今年、それぞれの課題に取り組み始めている」と指摘した上で、「だからと言って存亡の危機に見舞われているわけではない」と付け加えた。
タイが高得点だったのは、農産物が豊富で勤勉な労働力を持つ国であるという理由からだ。過去10年で平均5.7%の成長を遂げてきたペルーは、南米全体の消費の急増から恩恵を受けるとテンプルトン・エマージング・マーケッツ・グループのマーク・モビアス執行会長は分析した。同会長はペルー株を購入している。
チャンスの匂い
新興市場株のストラテジストらは今年の見通しに強気だ。シティグループの新興市場戦略責任者、ジェフリー・デニス氏は、中国の金融緩和策を追い風にMSCI新興市場指数が年末までに32%上昇すると予測する。
MSCI新興市場指数は昨年、欧州債務危機で世界経済の成長が抑えられるとの懸念から20%下落し、今年1月半ばには過去の平均より30%割安な水準に達した。
バンアグトメール氏は、「投資家が戻ってくるのは時間の問題だ。リスクよりもチャンスの匂いを嗅ぎつけるだろう」と期待する。
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