2011年6月26日日曜日

インタビュー:原発全停止なら20年度まで経済下押し=岩田前日銀副総裁

[東京 24日 ロイター] 岩田一政・前日銀副総裁(日本経済研究センター理事長)は24日、ロイターとのインタビューで、国内全ての原子力発電所が稼働を停止する場合には2020年度まで経済の下押し圧力となると指摘した。
 一方、再生エネルギー普及のためには電力価格の透明性が必要だとして、発送電を分離し、電力市場の自由化を促進する必要性を強調した。 

 岩田氏は、東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)・福島第1原子力発電所事故を受けた原発の安全への懸念により、日本の原発54基のうち停止中の37基が再稼働せず、残り17基も順次定期検査に入って再稼働しない場合、2012年4月に国内全ての原発が停止し、「ドイツよりも早く世界初の脱原発国になる」と指摘。その場合、日本経済の供給力は相当押し下げられ、2012年度には1.6%の経済下押し要因となり、火力発電などによる電力供給拡充で下押し圧力は徐々に緩和されるものの、2020年度も0.5%の下押し圧力が残ると試算した。  

  <全原発停止なら供給力低下> 

 原子力に代わり太陽光や風力など再生エネルギーを増やすことは「大変よいことだが、(国内電力需要を満たすには)間に合わない」とし、「(全原発が停止し供給力が大きく押し下げられる)事態に果たして日本が耐えられるか考える必要がある」と指摘した。 

 地域住民の理解を得る形で停止中の原発を再稼働するためには、1)事故に人災の側面がなかったかなど原因究明、2)検証を踏まえ国際原子力機関(IAEA)などの国際的な基準と整合的な新たな安全基準の設定、3)過去のしがらみにとらわれない新しい規制委員会による監視体制を確立することで、「どの原発が再稼働可能か判定することが必要」と強調した。 

  <福島事故で原発の発電コスト上昇> 

 これまで原発は発電単価がキロワット時5.5円程度と他の発電方法と比べもっとも安価とされてきたが、福島事故により「大規模な自然災害が発生した場合に払わなければならないコストがかなり上昇した」と指摘。米シンクタンクの試算では「大規模な自然災害を考えなくとも原発の単位当たり発電コストはや風力よりも高くなっている」とし、経済合理性の観点から原発依存度を高めるのが難しくなりつつあるとの見方を示した。

米国でスリーマイル島事故が発生した1979年以降は40年間原発が新設されなかった点を挙げ、「これだけ大きな事故が発生した日本で現状の9─14基の新設計画を進めるのは難しくなっており、原発の耐用年数を40年とすれば、2050年には稼働原発がゼロになる」と述べた。 

  <再生エネルギーでは風力に大きな潜在力>

  その上で岩田氏は、石油や天然ガスなどの化石燃料に対する新興国での実需増や今後枯渇する可能性を背景とした価格高騰を考慮すると、再生エネルギーの拡充が不可欠との見方を示した。

 再生エネルギーのうち日本では太陽光発電が注目されることが多いが、岩田氏は風力発電の潜在的な成長力に着目。「被災した三陸や福島県の浜通りなど海外を風力発電の基地にすることなどで東北地方で1600万キロワット程度と東北電力全体の電力供給能力と同等の潜在的な風力発電供給力がある」と述べた。地熱発電も潜在的な利用価値が高いと強調した。 

 しかし、気候次第で発電量が変動し、現在は発電コストが割高とされる再生エネルギーの普及を後押しするには、現在は地域独占企業に運営されているため需給がみえない電力価格を、需給を反映し透明性を備えたものにする必要があると指摘。「送電網へのアクセスを公平にし、再生エネルギーの比率を増やすには、大きな方向としては発送電分離・自由化していくことが正しい」との見方を示した。

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