11月10日(ブルームバーグ):外灘3号(スリー・オン・ザ・バンド)は、自らの名声を中国に賭けた伝説のファンドマネジャーがスピーチするにはうってつけの場所だ。
かつて上海の金融街と呼ばれた外灘に約1世紀前に建築されたネオ・クラシック様式のこのビルはリノベーション後、著名ファッション・デザイナーのブティックや有名シェフのレストランなどが入居している。今年日本を抜いて世界2位の経済大国に浮上した中国の繁栄を象徴する建物で、ハル・ベリーやモーガン・フリーマンといった著名人も食事や買い物で訪れている。
アルマーニのブティックの一つ上の階にある会場に集まっためかし込んだ聴衆がこの日迎えたゲストは、中国のタブロイド紙が「株の神様」と呼んだロンドンのフィデリティ・インターナショナルの運用部門プレジデント、アンソニー・ボルトン氏だ。銀髪できゃしゃな体型のボルトン氏は英国を重視した「フィデリティ・スペシャル・シチュエーション・ファンド」を28年間にわたり運用。一時は120億ドル(約9800億円)に上る資産を運用し、年間リターンは平均19.5%に達した。
銘柄選定の天才
そのボルトン氏が60歳となった今、運用業務に復帰し、4月に上場した「フィデリティ・チャイナ・スペシャル・シチュエーション・ファンド」(運用資産6億2500万ポンド=約820億円)で勝てる銘柄を選定できると考えた理由を説明するため中国にやって来た。他のファンドマネジャーに無視された株式で勝てる銘柄を自分には見つけることができると説くためだ。
これまでのところ同氏の自信に根拠があることは数字によって裏付けされている。4月の上場時にこのクローズドエンド型ファンドを購入し11月9日に売却したとすれば、7カ月足らずで27%のリターンを手にした計算だ。
同氏の中国に対する強気論は中国株式相場の動きに逆行するものだ。上海総合株価指数は最近急上昇したものの、年初来では11月9日時点で4.3%下落しており、相場の先行きに悲観論が高まっている。著名ファンドマネジャーのマーク・ファーバー氏は、中国の32年連続の経済成長が不動産バブルの重みで崩れる恐れがあるとの見方を今年何度も示している。
過小評価された欧州株の発掘を専門とする逆張り投資家のボルトン氏にとって、こうした悲観的な雰囲気は多くの投資機会を覆い隠すものにほかならない。ボルトン氏は2冊目の著書「インベスティング・アゲインスト・ザ・タイド(原題)」の中国語版発売に伴い7月に行ったサイン会の前に、「中国に関してわたしが気に入っている要素の一つは、かなりの懐疑論者がいる点だ」と述べ、「中国を誰もが有望視し、バリュエーション(株価評価)が高くなっていれば、わたしは自分の楽観論を抑えねばならない」と語った。
個人も賭ける
少なくとも2012年まで運用する予定のボルトン氏は、中国に大きく賭けている。自分自身の貯蓄から同ファンドに投じた額は250万ポンドと、フィデリティの他のファンドにこれまで投資した額では最高だ。「低成長の世界では、中国の相対的な成長率は一段と魅力が増す」と言う同氏は、中国経済のけん引役が輸出から将来的に国内消費とサービスにシフトすると考えて小売業者や自動車会社、製薬会社に投資。このほか、信用危機に陥りかねないとの懸念を無視して金融機関の株式も購入している。
ボルトン氏の自信の一部は、中国の中小企業が西側諸国の中小企業に比べて十分に調査されておらず、大きな成長機会を呈しているという確信から来ている。同氏はこれまでに香港上場の製薬会社、聯邦製薬などの銘柄に投資した。聯邦製薬株は年初以降11月9日までに290%の急上昇を演じており、320銘柄で構成されるハンセン総合指数の上昇率でトップ。同氏は「自分はラッキーだ。値上がりのすべてではないが、かなりの部分を享受した」と話す。
2つのハンディ
あすの勝ち銘柄を追いかけるボルトン氏にはハンディキャップが2つある。中国語を話さないことと、03年になって初めて香港以外の中国を訪問したことだ。
ボルトン氏の評判は輝かしいものだが、同氏の中国での冒険に乗ろうという投資家の意欲はフィデリティの大きな期待ほどには高まっていない。フィデリティは4月のロンドン証取上場前にこのファンドで最大6億5000万ポンドの募集を目指したが、その約3分の2の資金しか集まらなかった。
募集時の期待外れの市場の反応は、ボルトン氏に運用を任せるコストの高さも原因のようだ。純資産価値に対する総経費率を1.81%としている上、リターンがベンチマークのMSCI中国指数を2ポイント以上上回った場合に超過リターンの15%を成果報酬としてフィデリティは徴収する。
高額成功報酬
これに対し、エディンバラのマーティン・カーリー・インベストメント・マネジメントのチャイナ・ファンド(運用資産8億ドル)は、成果報酬を徴収しない。総経費率は1.16%で、ニューヨーク証券取引所で純資産価値を下回る価格で取引されている。マーティン・カーリーのファンドはまた、保有株式すべてを投資家に開示しており、設定された1992年からの年間リターンは平均プラス12%。
11月9日時点でボルトン氏のファンドは128.7ペンスで、純資産価値に対して10%のプレミアムだ。一方、マーティン・カーリーのチャイナ・ファンドは年初以降11月8日までに24%上昇し、純資産価値に対して3.85%のディスカウント状態。
チャイナ・ファンドの運用担当者クリス・ラッフル氏はボルトン氏との競争を歓迎している。「中国語を話せれば確かに役に立つが、乗り越えられないハンディではない。ボルトン氏の中国市場参入は遅過ぎたとは思わない」。
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