2011年7月31日日曜日

巨額損失ポールソン、その運用の実態は

2011/6/28
 中国の木材事業会社シノフォレスト社への投資失敗で5億~7億ドルの損失を被ったと先週報道された大手ヘッジファンドのポールソン・アンド・カンパニー社。その運用の実態は、4半期ごとにSEC(米国証券取引委員会)へ提出する運用報告書(様式13F)を通じて垣間見ることができる。2010年と2011年の1~3月期の保有銘柄トップ10を別表にまとめてみた(くだんのシノフォレスト社はトロント証取上場株なのでSECには報告されていない)。

ポールソン・アンド・カンパニーの運用銘柄トップ10
(SECへの四半期ごとの運用資産報告による) 2011年3月末時点 2010年3月末時点
銘柄 業態 百万ドル 銘柄 業態 百万ドル
1 SPDRゴールド・シェア 金ETF 4,405    SPDRゴールド・シェア 金ETF 3,431
2 アングロゴールド 南ア金鉱山 1,968    バンクオブアメリカ 金融 2,995
3 トランスオーシャン 沖合採掘請負会社 1,907 シティグループ 金融 2,052
4 シティグループ 金融 1,824        アングロゴールド  南ア金鉱山 1,660
5 アナダルコ 石油天然ガス 1,739      コムキャスト ケーブルTV 828
6 バンクオブアメリカ 金融 1,648      サントラスト 地銀 813
7 ハートフォード・ファイナンシャル 保険金融 1,182                                    ボストンサイエンティフィック 医療機器 715
8 ヒューレット・パッカード コンピュータ 1,024   キャピタル・ワン 地銀 703
9 サントラスト 地銀 988          XTOエナジー 石油、ガス 613
10 コムキャスト ケーブルTV 988       キンロス ゴールド 金鉱山 567

まず、目立つのが金ETF(上場投資信託)のSPDRゴールド・シェア。金価格高騰により1年間で10億ドル近く増加している。足元で金価格は1500ドルを割り込んできたものの、2011年4月から現在に至る直近の3カ月でもさらに5.57%(6月27日NY引けベース)の上昇を見せている。これと対照的なのが金鉱株だ。第2位のアングロゴールド・アシャンティ社は南ア最大の金鉱山だが、直近3カ月ではマイナス12.9%の株価下落を記録している。

 相対的にゴールドセクターでは金鉱株の不振が目立つ。これは巨大化した金ETFに投資マネーを奪われているためだ。そこで金鉱山各社は増配で対抗しているが、投資家からは「配当でばら撒くより新規開発投資に回し、ひと山当てて欲しい」との声も強い。マネジメント・スキルなどで株価が変動する金鉱株より、純粋に金価格上昇の恩恵を享受できる金ETFを選好する傾向も根強いようだ。この金鉱株不振はポールソンの誤算の1つであろう。

 さらに、もう1つの誤算が銀行株。別表で2010年には第2位であったバンク・オブ・アメリカの株価はこの1年で10.76%下がっている。直近3カ月では21.32%急落している(6月27日NY引けベース)。なお27日はバーゼル委員会の自己資本規制が予想より緩やかとの見通しから3.14%急騰とはなっている。そしてシティグループも、今年年初から現在まで19.2%下落。直近3カ月ではマイナス10.63%である。サブプライムを予見し金融株ショート(空売り)で見事に金融危機に勝ったファンドとして一躍名をはせたポールソン氏であるが、その後、米国金融機関の立ち直りに賭けたのが、ここまでは裏目に出てしまった。

彼は仏紙へのインタビューに答えて「ドッド・フランク法の金融規制が銀行の両手に手錠をかけた。急増する住宅差し押さえ物件で不動産市場は凍りついたままだ。銀行がロボサイナーといわれるように、ロボットのように機械的に住宅ローン関連書類を受理したことも響いている」と誤算の原因に言及している。それでも今年末までにバンカメ株価は現在の10ドル前後から30ドルになると強気のスタンスを崩さないのだが。

なおポールソンの中国株巨額損失の報道の余波が金市場にも及んでいる。現在進行中の金価格1500ドル割れの過程で、ポールソンが金ETFを売却したのではないかという噂が市場を駆け巡っているのだ。しかし、彼はこれまでのインタビューで「金価格が踊り場に差し掛かったのではなく、QE(米量的緩和)の結果ペーパードルの増加に比例して上昇してゆく。財政赤字の国内総生産(GDP)比も、やがてギリシャやポルトガルを上回るだろう」と繰り返し発言して、金保有が短期ではなくインフレヘッジ目的の戦略的保有であることを強調している。したがって、この噂はNY金先物市場の投機家がカラ売りの口実として流した可能性が強い。
 とはいえ、年間生産量が2700トン程度の金市場で、金ETFだけでも100トン近い量を抱え込んでいるので「金魚鉢に入ったコイ」状態であることは間違いない。将来的に出口戦略を模索することになろう。ちなみに、ジョージ・ソロス氏が保有し売却した量はその7分の1の14トンほどであった。したがって、金市場関係者がポールソンの一挙一動に神経質に目を光らせることは当然である。

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