2009年6月4日木曜日

グロス氏:投資家は通貨分散を、中銀のドル離れより先に

6月3日(ブルームバーグ):債券ファンド大手、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の創業者ビル・グロス氏は、ドルを保有する投資家に対して保有資産の通貨の分散を助言した。

グロス氏は、中央銀行や政府系投資ファンド(SWF)もいずれは米国の増大する赤字を懸念し、同じ措置を講じるため、その前に投資先を分散するようアドバイスした。

同氏はPIMCOのウェブサイトに今月の投資コメントを掲載した。その中でグロス氏は、米国の「富を生み出す能力が後退しているようだ。これは、相対的な生活水準にも同様の現象が起きていることを示唆しているかもしれない」とした上で、「もしそうであるなら、その意味するところは深刻だ」と続けた。

グロス氏は先月21日、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、英国の最上級格付け「AAA」の見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げたことを受けて、米国も「いずれは」最上級格付けを失うだろうとの見方を示した。

米国の債務が国内総生産(GDP)に占める比率は約45%だが、GDPの10%の財政赤字が毎年続くと、今後5年以内に債務の対GDP比は100%に上昇し、格付け会社や市場から「もはや改善が不可能な水準」とみなされるだろうと、グロス氏は指摘した。

2009年5月31日日曜日

〔FEDフォーカス〕米長期金利上昇で国債買い入れ増額も

2009年 05月 29日 14:04 JST
[ワシントン 28日 ロイター] 米長期金利の上昇を受けて、連邦準備理事会(FRB)が国債やモーゲージ債(MBS)の買い入れ増額を迫られるとの見方が出ている。
 アナリストの間では、買い入れを増やすのであれば、大規模に実施しなければ効果は期待できないとの指摘もある。

 FRBの資産買い入れをめぐっては、コーン副議長が23日の講演で景気刺激効果を認める発言をしたほか、4月の連邦公開市場委員会(FOMC)で買い入れ増額の可能性が議論されていたことも明らかになっている。
 

 その後、金融市場では米財政悪化に対する懸念が強まり、長期金利が上昇した。

 2009年度の米財政赤字予測は1兆8000億ドル、財務省は今年約2兆ドルを借り入れる計画だ。

 イールドカーブは大幅にスティープ化しており、2年債と10年債の利回り格差は27日、過去最大を記録した。巨額の国債発行が続くなか、投資家は米国債の購入に慎重になっている。

 FRB内部では、国債買い入れを増額すれば、バランスシートが肥大化するとの懸念もあるが、長期金利の上昇が進めば、民間への低利融資の流れが断ち切られ、景気の回復が妨げられる恐れがある。

 ライル・グラムリー元FRB理事は「このまま長期金利の上昇が続けば、景気回復が阻害される事態も想定しなければならない」と指摘。「資産の買い入れを拡大するなら、かなり大規模に実施しなければ効果は期待できない」と述べた。

 アナリストによると、次回6月23─24日のFOMC前にFRBが緊急で買い入れ増額に動く可能性は低い。

 FRBは6カ月間で最大3000億ドルの長期国債を買い入れる方針だが、現時点ではまだ半分弱しか買い入れておらず、増額にはFRB内部の意見調整が必要になる。

 FRBでは、買い入れを増額すれば、将来のインフレリスクが高まるとの懸念が出ているほか、FRBが財務省と結託して財政赤字を穴埋めしているとの見方が広がる恐れもあり、FRBの独立性を脅かすとの批判も出ている。
 

 <無力>  

 米国債の売りが一気に膨らむなかで、FRBが国債を買い入れる事態になれば、FRBは大きなリスクを抱えることになる。
 ライトソンICAPのチーフエコノミスト、ロウ・クランダル氏は「失敗すれば目もあてられない。『FRBは無能』との評判が立つことになる」と述べた。

 市場では、米国債の下落が住宅ローン金利など他の金利にどの程度影響を及ぼすかで、買い入れ増額の是非が決まるとの見方が多い。

 クランダル氏は、期間10年のスワップスプレッドが今週急拡大しており、信用収縮が悪化していると指摘。

 「もし、純粋に経済ファンダメンタルズに基づく動きであれば、買い入れ増額の可能性は高まらない。ただ、現実にはリスクプレミアムが乗り、スワップスプレッドが拡大しており、増額の可能性が高まっている」と述べた。


 FRBは、長期国債3000億ドルの買い入れに加え、年内にMBSを最大1兆2500億ドル、政府機関債を最大2000億ドル買い入れる方針。

 長期国債の買い入れ額は27日時点で1305億ドル。MBSの買い入れ額は21日時点で4815億ドル。

 コーン副議長は23日、FRBの資産買い入れについて、今後数年で国内総生産(GDP)を1兆ドル(インフレ調整後)押し上げる効果があるとの試算を明らかにした。

 ローセンス・マイヤーFRB元理事は、米国債の急落でFRBが国債買い入れを増額する可能性が高まったと指摘。

 ただ、次のFOMC前に決定が下されることはないとの見方を示した。

 マイヤー氏は「問題は、バーナンキ議長がどこまで強く増額を主張するかだ」と述べた。
 

 <内部対立>
 

 マイヤー氏は「現在の金融政策は適切とは言えず、なぜもっとも積極的な行動に出ないのか不思議だ。おそらく、内部に意見対立があり、効果に限界があるとの見方が出ているのだろう」と述べた。 
 FRBは4月のFOMCで政策金利をゼロ付近に据え置くとともに、資産買い入れの増額も検討したが、結局は今後の市場動向を見守ることで一致した。

 議事録を読むと、買い入れ増額を主張する陣営と、インフレを懸念する陣営の間で意見が対立したことがうかがえる。


 FRBのバランスシートの規模は現在2兆ドルで、昨年9月のリーマン・ブラザーズ破たんから2倍に拡大している。

 FRBは金融危機対策を適切な時期に縮小する方針を示しているが、バランスシートが肥大化すれば、それだけ圧縮が難しくなる。

 

 国債買い入れを大幅に増額すれば、市場のインフレ懸念をあおる可能性があるため、FRBが長期金利に一定の目標を設定して大規模な買い入れに踏み切る可能性は低いとみられる。

 マイヤー氏は「(買い入れ増額は)逆効果を招く可能性もある。市場にインフレ懸念が広がり、(長期金利に)インフレプレミアムが乗れば、容易には払しょくできない。慎重に進める必要がある」と述べた。