2008年12月24日水曜日

【FRBウオッチ】ヘリコプター・マネー投下か-最終防衛ライン接近

12月23日(ブルームバーグ):米連邦公開市場委員会(FOMC)は15、 16両日開いた今年最後の定例会合で、ゼロ金利政策と時間軸、さらに量的金融緩和の3つの措置を同時に発表した。大不況とデフレに対する予防措置と評価することも可能だが、その一方、政策ミスの積み重ねで最終防衛ラインにまで追い詰められたと見ることもできる。

     FOMC声明の真意

  今回のFOMCの措置は日銀が2年以上かかって到達したレベルに、名目的には一回の会合で変身したことになる。表層を追っていれば、英断と映るのも無理はない。FOMC声明も先制的な措置と受け取られることを狙っており、その狙いはある程度成功している。

  コーンFRB副議長は2000年7月に日銀が主催したシンポジウム(当時はFRB金融局長)で、「米国以外でゼロ金利制約下における金融政策の実験が行われていることに感謝している」と、日銀に敬意を表していた。日銀の経験に学んで、FOMCが今回、素早い対応を取れた面もあるのだろう。

  しかし、コーン副議長はこの時、日銀のような窮地に追い込まれることはないと楽観していたはずだ。2002年6月に公表されたFRBの調査リポートは「日銀が90年代前半に実際よりさらに2%深く金利を下げていれば、最終的にゼロ金利政策は避けられたはずだ」とするシミュレーションを掲載していた。

         米金融当局の過信

  バーナンキ議長も2002年11月にデフレ防止策を提示する中で、「米国経済は強靭でありデフレのリスクは極めて小さい」と、楽観していた。その結果、「バブルは破裂するまで、それと認識できないので、破裂後に対処すれば災禍的な事態には避けられる」という、バブル事後処理の政策を確立していた。バブルは破裂した後に強力な金融緩和策で対処すれば、「強靭な体力を持つ米経済がひどい混乱状態に陥ることはない」と過信していたわけだ。

  この政策の結果、バブルは最大限に膨張。その分、破裂後の破壊力も予想を絶するレベルに跳ね上がっている。バーナンキ議長がバブル破裂に対し、実質マイナス金利もいとわず大幅利下げを決断したのは今年1月21日の緊急FOMC会合からだった。同日0.75ポイントの大幅利下げを断行。その9日後の同月30 日にさらに0.5ポイント利下げして3%に設定した。

  さらに、ベアースターンズ・ショックに見舞われた3月に再度0.75ポイントの大幅利下げに踏み切り2.25%まで切り下げた。消費者物価指数(CPI)は今年1月時点で前年同月比4.3%上昇を記録しており、1月の時点で大幅なマイナス金利が実現していた。バーナンキ議長は今年3月の大幅利下げとベア・スターンズの救済時に導入した強力な流動性供給策により、峠は越えたと楽観。4月FOMCで保険的にFF金利を0.25ポイント引き下げ、事態の収拾に入る心づもりだった。

    FRBバランスシート膨張

  バブル破裂に伴う危機はいったん収まるかに見えたが、予想に反して実体経済の悪化と共振して一段と深刻化。9月の政府支援機関の公的管理移行、リーマン・ショックへとつながっていく。同ショックに伴う一段の流動供給により、FRBのバランスシートは9月から急膨張を開始。12月17日現在で昨年末比1兆 4000億ドル増の2兆3000億ドルに膨れ上がっている。今秋から実質的な量的緩和状態に入ったと言える。

  さらに11月25日に導入された資産担保証券(ABS)の買い取りを中心とする新たな8000億ドルの資金供給に伴いバランスシートは来年早々に3兆ドルを突破する。FRB高官は、今後FOMC政策討議の主な焦点はバランスシートの規模になると指摘。バランスシートの規模を量的緩和政策の目安として利用する可能性が高い。

  さらに同高官は当局がどのような資産を買い取るかも焦点になるだろうとの見通しを示した。同高官によると、FOMCはFRBのバランスシートの拡大につながるすべての政策決定に関与することになった。これは流動性対策そのものを金融政策に格上げすることを意味する。もっとも、規定路線を追認したに過ぎず、効果が限定的なことは実証済みである。

          時間軸効果

  FOMCは12月16日の声明で、「異例に低い金利を一定の期間継続する」と時間軸を設定したが、これも実質的な意味を持ちそうもない。FOMCは 2003年8月の会合で、当時1%だったFF金利を「相当の期間にわたり維持する」と初めて時間軸を設定したが、当時はちょうど、景気の急拡大局面に入ったところで、当然必要になるであろう利上げを「相当期間にわたり」見送るという意思表示だった。今回は戦後最長の不況に直面しており、そのボトムも見えない。

  2003年8月の段階で「相当の期間にわたり低い金利を続ける」と約束して、折からの景気急拡大局面で巨大バブルを醸成した。今回はその破裂により、流動性の罠に陥っており、ゼロ金利の解除は想定がつかなくなっている。異例の金利は、今度こそ「相当の期間」にわたり継続することになるだろう。

         デフレリスクに転換

  バーナンキ氏は2002年11月の講演で、可能なあらゆる措置を実施しても、デフレ阻止は簡単ではないと指摘、なによりも「予防が大切だ」とも述べていた。FOMCメンバーも現状について、「デフレのリスクはなお小さい」と指摘。緊急措置はあくまでもデフレ予防のための措置との見立てだ。

  しかし、このところFOMCメンバーの経済予測は下方修正の連続になっている。デフレのリスク判断が正しいとは言い切れない。2002年のFRB調査報告も「デフレの予測は困難だ」と認めていた。米国経済はすでに景気後退を通り越して、不況に直面。デフレリスクは鮮明になってきた。

  16日のFOMC声明は物価見通しについて、「インフレ圧力は目に見えて後退した。委員会はエネルギーなど商品価格の低下や、経済活動の見通し悪化に鑑み、インフレはこの先数四半期において一段と緩和すると予想している」と指摘した。

  その上で声明は「米連邦準備制度は持続的な経済成長の再開と物価安定の保持に向けて、可能な手段すべてを導入する」と表明。前回の声明に盛り込まれていた「インフレはこの先数四半期において『物価安定と一致した水準』に緩和すると予想している」としていた一文を削除している。

  前回までの声明は「物価安定と一致した水準」に向けてインフレ率が低下していくというイメージだった。今回の声明からこの文言が消えたことは、「インフレ率が物価安定と一致する水準」を割り込み、デフレリスクへと転換することを示唆している。FOMCメンバーは個人消費支出(PCE)のエネルギーと食品を除いたコア価格指数でみて年間1-2%上昇を適正水準と見てきた。

  FOMCはこのレンジを下方に抜けるリスクを想定し始めている。10月30 日のFOMCでメンバーが提出した経済予測の中で、2011年末のPCE価格予測について、1人のメンバーはコア、総合指数とも0.8%の上昇としていた。12 月のFOMCでは経済見通しがさらに引き下げられており、デフレリスクはより鮮明になってきたはずだ。

  FRB首脳部は「バブルは破裂するまで、それと認識できないため、破裂後の治療に専念する」と主張してきた。そして、今回の巨大バブル破裂後も金利引き下げに加えて非伝統的な流動性供給策など、さまざまな治療を施している。しかし、すでに大恐慌以来最悪の不況になりつつある。つまり、バブル破裂後の流動性供給は、医療にたとえれば輸血の効果しかなく、病気の真の回復にはつながないことが明らかになってきた。これまでのFRBの量的緩和はこの流動性供給とほぼ同義である。

  バーナンキ議長は最後の手段として、オバマ新大統領が実行する財政政策に連動させて、米国債を購入。こうして実体経済に直接お金を投下することにより、景気を突き動かすことを狙っているようだ。これは正に、同議長が2002年11月の講演で提示したヘリコプター・マネーの投下である。新政権の財政出動に連動させたヘリコプターベンによるマネー投下が金融政策の最後の砦となりそうだ。

0 件のコメント: