2011年12月3日土曜日

11月26日開催「日本SAIKOH2011」 ジム・ロジャーズインタビュー

ダイヤモンド・オンライン

投資では商品と通貨をロング、
株式をショートと見ている

――ソブリンリスクに苦しむ欧米諸国や、東日本大震災に見舞われた日本をはじめ、世界の主要国は不安を抱えている。そうした状況を反映して、金融市場は迷走の度合いを強めている。ロジャーズ氏は、足もとの世界経済や金融市場の動向を、どう見ているか。

 2012年も、世界経済は問題を抱えながら進む。このままだと、事態はますます悪化するのではないか。

 私はこうした状況を見据え、投資に関して商品と通貨をロングポジション、下落傾向が顕著な株式についてはショートポジションをとっている。今最も有望なのは、やはり商品市場だ。商品は堅調な展開が続くと見る。

――商品は、ロジャーズ氏が以前から注目している市場だ。新興国の需要増によって資源・食糧の需給逼迫が続き、商品価格は軒並み上昇基調にある。先行きはどうなるだろうか。

一部の商品で深刻な供給不足が起きている。現在の商品市場は典型的な「ブルマーケット」(相場上昇が続く市場)だが、そのスタートは1998年頃だった。通常、株式も不動産もブルマーケットが10年以上続くと、供給過剰が起きて相場が下落することが多い。

 しかし今回は、08年に世界的な金融危機が起きたため、多くの生産がリスケジュールされた。そのぶん需要が残っており、供給と相場上昇は続くと見ている。

景気停滞で金融緩和が起きれば
やはり商品には追い風となる
――しかし、2012年以降、世界経済は減速していく可能性が高い。それに伴い、商品の需要が減退すれば、これ以上ブルマーケットは続かないのではないか。

 果たして、その考え方は正しいだろうか。私は、世界経済が減速して一時的に需要が落ち込んでも、商品のブルマーケットはまだまだ続くと見ている。

 今はちょうど1970年代、あるいは30年代と同じであり、「商品は堅調、株式は低迷」という状況になっている。70年代を振り返れば、不況にもかかわらず、エネルギーなどの商品市場は活況を呈していた。

 今後、世界の景気がよくなれば、商品価格はさらに上昇し、投資家はそこで利益を得ることができる。また、もし景気がよくならなくても、各国政府が金融緩和策を行なって紙幣を増発するため、なおさら商品が注目される可能性がある。

 金融緩和が行なわれると、紙幣の価値が下がるので、人々はコメや金など、実物資産に注目するようになるからだ。つまり、世界経済がどちらに転んでも、商品への投資は期待できることになる。

――商品のなかで特に注目している分野は?

 レアメタルもそうだが、農業分野が最も有望だ。世界の人口は今後40年間に90億人まで増える見通しのため、農産物の需要はこれからどんどん伸びていく。

日本や欧米、及び一人っ子政策の影響が出始める中国では、一時的に人口減少が起きるだろうが、過去10年間を見ると、新興国の生活水準の向上に伴い、食糧の消費量は激増している。

 それに対して、食糧の生産量は記録的に低い状態が続いている。こうした状況によって起きる需給の逼迫傾向は、しばらく変わらないと見ている。一部の国で起きる人口減少によって、大きくトレンドが変わる可能性は低い。

 また、一部の農産物の価格は歴史的に見ても低い水準にあり、砂糖などは高値の半分以下と割安になっている。それを見ても、農産物価格の上昇余地は大きい。農産物に加えて、農業関連のETFやインデックスファンドへの投資も有効だ。

――商品と株式の投資ポジションは、中長期的に見て変わる可能性があるだろうか。

 もちろんあるだろう。長期スパンで見れば、商品のブルマーケットが終焉を迎え、他の市場に投資すべき時期が来るかもしれない。

一時的に下落局面もあるだろうが
中国はアジアを牽引し続ける有望市場
――ロジャーズ氏が以前から地域として注目しているのは、成長著しい中国だ。しかし、バブル崩壊懸念など、中国経済には不安要因もある。今後の見通しはどうか。

 中国経済については今後も楽観的だが、一時的に下降局面はあると見ている。中国政府は、不動産価格の上昇やインフレを抑え込もうとして、この2年間で6回も利上げをし、12回も預金準備率を上げている。その影響もあり、今後中国の景気はしばらく減速するだろう。影響は、欧米や日本にも及ぶはずだ。

 ただし、すでに述べたように、商品市場は堅調な展開が続くため、資源大国である中国の経済が大きく落ち込むことはない。中国経済の牽引により、アジア全体の成長は次の世紀まで続くだろう。

―― 一方で、深刻な財政不安に悩む米国やユーロ圏に対する不安は大きい。近い将来、躍進する新興国に対して、先進国の衰退が決定的になると見る向きもある。先進国には、投資妙味がなくなるだろうか。ロジャーズ氏は、ユーロをはじめ一部の先進国通貨にも投資してきたと聞く。どんな見通しを持っているのか。

一概に「新興国優勢、先進国劣勢」とは言い切れない。新興国は確かに成長の可能性が高いが、私はすでに買われ過ぎの感がある一部の新興国については、むしろショートと見ている。特にインドはショートだ。

 ただ、天然資源をたくさん持っている資源国は、その国がしっかり運営されているという前提があれば、向こう数年間は堅調だろう。それに対して、資源が少なく、大きな債務を抱えているような国は、新興国であっても投資妙味がない。

 翻って先進国については、私は米国に対してここ10年ほど悲観的な見方をしてきた。しかし直近では米ドルが実力以上に下落したので、買いを入れることもある。

 ユーロ圏も不安は大きいが、債務の返済期限に悩まされている米国のほうが、状況はより深刻だ。個別に見れば、ギリシャ、イタリア、スペインなど、財政危機に陥っている国は多いが、ユーロ圏全体で見れば、バランスシートの痛みは米国ほど大きくない。だから、かつて投資したユーロもまだ持ち続けている。

 また日本についても、これから有望な市場だと考えている。最近では、日本円にも資金を入れ始めた。

復興の遅れと円高に悩む日本に
注目しているのは何故か?
――東日本大震災に見舞われた日本では、サプライチェーンの混乱によって一時企業業績に陰りが見えた。加えて、政府による復興対策もなかなか進んでいない。不安材料が多い日本に、なぜ注目しているのか。

 日本経済はバブル崩壊以降、20年近く低迷を続けており、株式を中心に金融市場は下がるところまで下がった。今はとても割安な市場だ。

 以前から「そろそろ買いかな」と思っていたら、大震災が発生してさらに割安になったため、「これはますます買いだ」と思った。これまでの経験から言うと、こうした大災害に襲われた国に投資すれば、その後1~2年間で大きな利益が生まれることがある。

 今後は復興の過程で、再び株式に値が戻ってくる一方、円高も続くだろう。成長著しいアジアに投資をするという意味でも、日本は有望なマーケットだ。

ただ、株式全般についてはしばらくショートだと見ている。そのため、今は主に円と日本株のインデックスファンドに投資している。投資を始めたのは、東日本大震災の後から。農業関連のETFにも興味を持っている。

――ドルやユーロから逃避した資金が円に流れ込んだ結果、現在は空前の円高が続いている。今の円の水準は、投資の観点から見て適正なのだろうか。また、円高による輸出企業へのダメージを考えると、株式市場の回復にも不安が残りそうだ。

 私は、現在の水準はまだ低く、今後は「もっと上がる」とさえ思っている。だからこそ、日本に投資しているのだ。

 それに、円高で苦境に陥る日本企業は一部に過ぎない。綿のシャツ、配管の材料に使う銅、ガソリンなど、輸入品が安くなることによって、多くの日本人の暮らし向きはむしろよくなるはずだ。そして生活水準が上がり、競争力も高くなる。長期的に見れば、円高は日本にとって悪いことではない。

――現在の資産ポートフォリオの内訳は?

 大雑把に言うと、農産物や貴金属などの商品と通貨が中心となる。株式については、日本株と中国株を若干持っているが、これは例外。基本的に、インデックスファンドには投資しても、個別株は持たないようにしている。

確実に儲かる方法などわからない
投資家は情報をよく吟味すべき
――先行きが不透明な金融市場で、苦戦を強いられている日本の投資家は多い。ロジャーズ氏のように先を読んで利益を出すためには、日々どんなことを心がければよいのだろうか。

 私自身、そんなことは正確にわからない。もしわかっていれば、それをビンに詰め込んで皆に売ってしまいたいくらいだ(笑)。

 1つ言えることは、常に懐疑心を持つこと。日々、投資に関する色々な情報が耳に入ってきても、「本当だろうか」と疑ってかかり、よく吟味することが必要だ。

また、自分がよく知っている分野にフォーカスして投資することも重要。車が好きな人なら自動車分野、ファッションが好きな人ならアパレル分野に投資すれば、成功の確率は高くなる。決して、よく知らない分野に手を出してはいけない。

 私は、農業分野をはじめ、日本の潜在能力に大きな魅力を感じている。日本の投資家にとっても、まだまだ多くのチャンスがあるはずだ。今は不安な要素が多くても、将来的には楽観的な要素が多い。まさにこれからが「勝負時」だ。

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