2011年12月1日木曜日

ユーロ圏、崩壊回避なるか?残された時間はせいぜい10日

(2011年11月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

筆者がこれまでに参加したユーロ圏についての議論ではほとんど例外なく、事態が相当悪化しないと政治家は行動しないという指摘がなされてきた。

 ユーロ共通債にしても、債務のマネタイゼーション(貨幣化)にしても、量的緩和にしてもそうだというわけだが、本当にそうだろうかと筆者は思う。この指摘は、深刻な集団行動問題があることを無視しているからだ。

 欧州の危機は先週、質的に見て新たな段階に突入した。ドイツ国債の入札が大失敗したほか、スペインとイタリアの短期金利が憂慮すべきレベルに上昇し、ユーロ圏全土で国債市場が機能しなくなってしまったのだ。

 銀行セクターも壊れてしまい、ユーロ圏経済の重要な部分が信用供与を受けられなくなっている。グローバルな投資家がユーロ圏から資金を引き揚げたり、一般市民の間で静かな銀行取り付けが進んだりする可能性も出てきている。

 このように信頼が大きく損なわれたことにより、救済戦略の要の部分も壊れてしまった。欧州金融安定機関(EFSF)の資金力は、株主である各国の保証に由来する。危機がフランスやベルギー、オランダ、オーストリアに及んだことで、EFSF自体もこの病の拡大から影響を受けてしまっている。かなりドラスティックな変化がなければ、ユーロ圏はすぐにでも瓦解しかねない。

ユーロ圏が下さねばならない3つの決断
 技術的には、この問題は今でも解決できるのだが、選択肢は限られつつある。ユーロ圏は次の3つの決断をすぐに下す必要がある。ここには、いつものごまかしが入り込む余地はほとんどない。

 第1に、欧州中央銀行(ECB)は銀行セクターへの短期流動性の供給を増やす劇的な手段に加え、何らかのバックストップ(安全装置)を働かせることに同意しなければならない。具体的には、利回り格差(スプレッド)が大きくなった国債に無制限の保証を付与するか、あるいはEFSFにバックストップ融資を提供するという施策が必要だ。

 そうすれば、当面の破綻の脅威には対処できるだろう。

第2に、ユーロ共通債導入のしっかりした工程表を提示する必要があるだろう。欧州委員会はこの債券を「安定債」と呼んでいる。これが今年の婉曲語大賞の受賞候補になることは間違いあるまい。

 この債券については複数の提案がなされている。名称はこの際どうでもいい。重要なのは、それが信頼に足る規模の連帯債務になることだ。国境を越える国家保証などという馬鹿げたことはやめなければならない。この保証は危機の解決策になっていないうえに、今では危機を拡大させる最大の要因になっている。

 第3に下さなければならない決断は財政同盟である。これは国家の主権の一部放棄と、財政政策を扱う信頼できる制度的枠組みの創設を伴うことになるだろう。できれば、その枠組みでより広範な経済政策問題も扱いたいところだ。

 ユーロ圏が必要としているのは適切な人材を配した財務省であり、欧州理事会の面々がコーヒーを飲んだりデザートを食べたりしながら話し合う臨時の調整の場ではない。

12月9日の次回サミットが勝負
 筆者が得た情報によれば、この3つの要素を盛り込んだ妥協案について、落としどころを探る対話がなされているようだ。もし12月9日に予定されている次の欧州連合(EU)首脳会議で合意することができれば、ユーロ圏は生き延びることになるだろう。もし合意できなければ、ユーロ圏はがらがらと崩れ落ちる恐れがある。

 その場合でも景気後退が長引くリスクはまだあるし、恐慌に発展する可能性もある。従ってもし欧州理事会が、そのようなちょっと信じられないほど野心的な議題で合意に達することができたとしても、首脳たちは今後何カ月間も何年間も、より良い成果を上げる努力を続けなければならないだろう。

 このような大きな合意がなされる可能性はどのくらいあるのだろうか? 危機解決の政治的・財政的コストは週を重ねるごとに高くなる。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は先週になってもまだ、ユーロ共通債の導入を否定していた。

 欧州委員会が独自の提案を先週まとめた際には激怒していた。メルケル首相は、危機の話とユーロ圏の将来の構造についての話を切り離して議論するつもりだったからだ。

 この危機が始まってからメルケル首相が受け取ってきた経済面のアドバイスは、実にお粗末だった。今では、メルケル首相がユーロ共通債に公然と反対していることが、合意の大きな障害になっている。この自縄自縛状態から首相がどうやって脱出するつもりなのか、筆者にはよく分からない。

もし彼女がもっと用意周到だったら、ドイツ経済諮問委員会の提案を手に首脳会談に臨むこともできただろう。諮問委員会は、限定的で完全には詰め切れていないが優れたプランを作っていたのだ。

 委員会は「債務償還」債なるものを提案している。これも今年の婉曲語大賞の受賞候補になるだろう。そのポイントは、完全に一時的な措置という位置付けでユーロ共通債の発行に踏み切り、ユーロ導入国が合意した期間内にこれを償還していくというものだ。少なくともこの提案は、ドイツ憲法の厳密な解釈に沿ったものになるだろう。

 ユーロ共通債に対するメルケル首相の敵意には、間違いなく一般国民も共鳴している。実際、新聞各紙は欧州委員会の提案に怒りをあらわにしていた。だが筆者は、この提案自体も提案のタイミングもなかなか巧みだと思った。

欧州委の巧みな提案を生かせるか?
 欧州委員会はとにもかくにも議論の性質を変えてのけた。メルケル首相は自身の提案した財政同盟を手に入れることができるが、それと引き換えにユーロ共通債の発行を受け入れなければならなくなったのだ。もしこの両方で合意が成立すれば、問題はそこで解決する。この危機が始まってから初めて官僚機構が知的な提案をしたというのが筆者の感想だ。

 欧州理事会がそのように内容のある合意にこぎ着けられるかどうか、過去の実績を考えるとまだ安心はできない、と筆者は考えている。もちろん、理事会は何らかの合意をし、それを包括的なパッケージと称して発表することになるのだろう。いつものパターンだ。

 しかし、そうした見せかけのパッケージがもてはやされる期間は次第に短くなっている。前回の首脳会議の後、EFSFにレバレッジをかけるという滑稽なアイデアに金融市場は沸いたが、その熱気は48時間も持たなかった。

 先週25日に行われたイタリア国債入札の悲惨な結果は、もう時間切れが迫っていることを示唆している。ユーロ圏に残された時間は、あとせいぜい10日間だ。

By Wolfgang Münchau

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