2011年11月4日金曜日

「前進せよ、さもなくば死のみ」-仏外人部隊から商品取引業トップへ

9月1日(ブルームバーグ):商品取引最大手、スイスのグレンコア・インターナショナルのサイモン・マレー会長は、若き日の5年間、フランス外人部隊に身を投じ、命懸けの任務などをこなす中で恐ろしい体験をした。1961年、アルジェリアのオーレス山地で、独立を目指す民族解放戦線側の部隊に包囲された仲間の救出に向かったマレー氏は待ち伏せに遭い、すぐ隣にいた1人は機関銃の弾丸の雨を浴びて命を落とした。

  英国出身で現在香港在住のマレー氏は65年に除隊したが、その後の人生でも闘争心を失うことはなかった。ドイツ銀行のアジア部門や、香港の資産家、李嘉誠氏のビジネス帝国を率いたばかりか、63歳の時には過去最高齢者として南極点を独力で踏破。この時の58日間の行程でマレー氏の体重は23キロ減ったという。ブルームバーグ・マーケッツ誌10月号が伝えた。

  現在71歳となったマレー氏は新たな戦いを挑んでいる。4月にグレンコアの会長に指名された後、5月にはロンドンと香港での新規株式公開(IPO)のかじ取りを助けた。同IPOは今年これまでで最大のIPOとなっている。

サイノフォレスト

  カナダに上場する造林会社サイノフォレストの取締役でもあるマレー氏は、投資会社マディー・ウォーターズを率いる空売り投資家カーソン・ブロック氏が今年6月2日のリポートでサイノフォレストが保有資産を水増しして報告していたと指摘した後、同社の株価が同月第3週まで急落したのを目の当たりにした。

  サイノフォレストはブロック氏の主張を否定。第三者機関による調査を依頼した。マレー氏はこの件について、年内に明らかにされる予定の同調査結果が出るまではコメントを控えるとした上で、「私は投資家の味方だ。私は、われわれがいかなる過ちも犯していないことをはっきりと確かめる必要がある」と語った。

  マレー氏がサイノフォレストに関与していることから、ただでさえグレンコア会長として世間の関心を呼んでいる同氏はさらに注目を浴びることとなった。会長職の年間報酬は67万5000ポンド(約8520万円)。時価総額590億ドル(約4兆5300億円)のグレンコアはIPO実施によりFT100種指数に直ちに採用されたが、株価は8月31日時点でIPO価格から20%下げている。

  グレンコアは1974年、投資家マーク・リッチ氏によって創設された。同氏は83年に脱税や米国による制裁措置に違反してイランから原油を購入した罪で起訴され、その後、2001年に当時のクリントン米大統領から恩赦を受けた。94年にマーク・リッチという社名だった同社を経営幹部らに売却。経営幹部らは社名をグレンコアに変え、非公開会社として経営を続けた。マレー氏の会長としての仕事は、世界最大の上場会社として期待される透明性を確保できることを投資家に説得することだ。

         プレッシャーは全く感じず

  身長1メートル70センチでやせているが筋肉質の体格のマレー氏は、いまだにヒマラヤ山中をトレッキングしており、こうしたプレッシャーには負けないと言う。香港のビクトリア湾を見下ろすビルの36階にあるゼネラル・エンタープライズ・マネジメント・サービシス(GEMS)の本社オフィスでインタビューに応じた同氏は「全く平気だ」と述べ、批判にはあまり動じないが「誤解された場合はいら立つ」と語った。

  マレー氏の生い立ちは苦難が少なくなかった。父が家を出た後、英国の孤児院に預けられ、18歳で教育制度に背を向けた。20歳の時、パリ行きの列車に乗り、外人部隊に入隊した。

  除隊後、マレー氏はアジアに向かった。1966年、香港に本拠を置く英複合企業ジャーディン・マセソン・ホールディングスに見習いとして入社。上級管理職まで上り詰めた。80年、自分の会社ダベンハム・インベストメンツを立ち上げ、84年には貧しい境遇から身を起こして複合企業ハチソン・ワンポアの株式を取得した李嘉誠氏と手を組んだ。

  しかし香港最後の総督、クリス・パッテン氏を評価しなかった李氏に対し、その政策を支持したマレー氏は李氏と袂を分かつ。94年にドイツ銀行に加わり、その4年後にGEMSを興した。

            前進せよ

  マレー氏は仕事の合間を縫って、冒険も続けた。南極点踏破の3年前の2000年には、サハラマラソンに挑戦。6日間で243キロを完走した。元米海兵隊士官で現在は米フォートレス・インベストメント・グループで430億ドル相当の資産運用に携わるダニエル・マッド氏は、「フランス外人部隊のモットーは『前進せよ、さもなくば死あるのみ』であり、これはマレー氏のビジネスと冒険の両方の人生を貫く指針の一つだ」と指摘した。マレー氏はこれまでの歩みと同様、今後もどんな事が起ころうと前進を続けることだろう。

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