2011年8月7日日曜日

同族企業の巨人カーギル、執着薄の新世代登場で10年内に株式公開か

7月28日(ブルームバーグ):米国の農産物供給最大手カーギルのグレッグ・ページ最高経営責任者(CEO)は2010年末、世界的な食料価格高騰の責任を誰に問うべきかについて妙案を思い付いた。各国政府に負わせようと-。

  ページCEO(59)は今年3月にカリフォルニア州サンディエゴで開かれた全米穀物飼料協会の大会で、行動を起こすよう参加者に呼び掛けた。ブルームバーグ・マーケッツ誌9月号が報じている。同氏は、政府による買い占めが価格高騰の最大の要因だと指摘した。食料価格は昨年10月から1月にかけて15%上昇。世界銀行によると、価格上昇で約4400万人が貧困に陥った。

  「時機を逸し、計画性がなく、近隣諸国を窮乏させる戦略にほかならない」。干ばつや洪水の影響で穀物在庫が数十年ぶりの低水準に落ち込んだのを受けて輸出を次々に禁止したロシアなどの動きをページCEOはこう非難した。

  さらに供給に支障が出れば、価格はますます高騰し、各国政府は穀物だけでなくエネルギーや金融市場取引の規制を強化して介入してくる可能性があると、ページ氏は警鐘を鳴らした。このような動きは農産物投資を妨げ貧困層に打撃を与える恐れがある。

  ページCEOは「議会関係者らもわれわれと同じ考えを持っていることを確かめなければならない」とし、企業幹部らに対し、政府が農産物市場に介入しないよう議会へのロビー活動を強化するよう呼び掛けた。

            食料供給網

  カーギルが重視することは、民間セクターの立場と干渉されないことの2つだ。スコットランド人の船長の息子だったウィリアム・カーギル氏が1865年に創業した農産物供給の巨大企業カーギルは、7世代続く同族所有企業である。これほど長期にわたる同族会社は主要企業では米国史上、例がない。ミネソタ州ウェイザタ郊外を拠点とするカーギルでは、ウィリアム・カーギル氏の子孫約100人が経営管理に携わっている。カーギルのバランスシートを見ると、資産から負債を差し引いた株主資本が昨年11月までの4年半の間にほぼ倍増し、295億ドル(約2兆3000億円)に達した。

  肥料生産を手掛ける傘下のモザイクも含めたカーギルの売上高は、今年2月までの9カ月間に15%増加し918億ドルに達した。ページCEOが政府介入に反対するロビー活動の強化を呼び掛けたのはこの翌月だ。この間の利益は前年同期比で約2倍の35億ドルとなった。

431通りのカット法

  世界各地で食料供給への不安が高まる中、カーギルは世間の目が自社に向けられるのをうまく切り抜けてきた。スーパーにはカーギルブランドの製品はなく、経営幹部らも報道関係者の取材に応じることはめったにない。ただ、世界への食料供給におけるカーギルの影響力は絶大だ。社員13万1000人を擁し、トウモロコシからバイオ燃料や食料、飼料への転換事業を手掛ける米国の主要企業の一角を占める。塩の販売のほか、ココアと砂糖の売買で米国首位。牛肉生産では2位で、431通りのカット方法を駆使した肉を提供できるため、ウォルマート・ストアーズは各店舗で食肉処理担当者を雇う必要はない。

  アグリソースのダン・バス社長は「カーギルは種苗や化学製品を農家に売り、農家から穀物を買う。その穀物をカーギルの家畜飼育場に運び、牛を処理し牛肉を売る。カーギルは食品供給網の一部ではない。供給網全体だ」と指摘する。

  バージニア州の弁護士ダニエル・クレメンテ氏によると、元CEOのホイットニー・マクミラン氏(81)は非上場企業にとどまることを最も声高に主張していた人物の1人だ。同氏は2005年まで11年間にわたって一族に経営についてアドバイスし、現在でも創業者のひ孫であるジェームズ・カーギル2世氏の相談に乗っている。

女家長の死

  マクミラン氏とウィリアム・カーギル氏の娘、エドナ氏の結婚により、1895年に2つの家族が合体し、共同経営が始まった。

  筆頭株主で一族の女家長だったマーガレット・カーギル氏が2006年に85歳で死去すると、カーギル家とマクミラン家は同族経営のジレンマに直面した。事情に詳しい関係者によると、マーガレット氏は慈善事業に寄与するため、保有する17.5%の株式を売却することを望んだが、マクミラン氏ら長老が反対。これら株式がいったん市場に出回れば、一族の若手がカーギルの新規株式公開(IPO)を支持することを懸念したからだという。

  その代わり、カーギルは64%を保有していた北米2位の肥料メーカー、モザイクの持ち株を減らした。このスプリットオフ(株式交換による分配)は双方に利益をもたらすことになった。モザイクの時価総額はマーガレット氏が死去した時点の61億ドルから今年5月には305億ドルに増加し、マーガレット氏の信託は同氏保有のカーギル株と引き換えにモザイク株を受け取った。これは同族株主の現金も増やすこととなり、IPOを支持する潜在的な動きも収まった。

スプリットオフ

  一族のメンバーとマーガレット氏の信託は5月25日、モザイクの株式計117億ドル相当の分配を受けた。カーギルの資産も73億ドル増加した。経営幹部と社員の持ち株制度も計4億ドルを得て、スプリットオフの価値は計194億ドルに上った。クレディ・アグリコル・セキュリティーズUSA(ニューヨーク)のアナリスト、マーク・コネリー氏は「所有権が変更されることなく190億ドル相当を放出できる企業は他に思い浮かばない」と指摘。「モザイクの株式の3分の2を保有していなかったら、カーギルは直ちにIPOに踏み切っていただろう」と語る。

  カーギルが永遠にIPOを避け続けることはできないかもしれない。クレメンテ氏は、マクミラン氏がいずれこの世を去れば、娘のエリザベス・シュミット氏らの世代が強い影響力を持つようになるとみている。

執着薄

  クレメンテ氏は「私が話した若者たちはホイットニー氏のような長老に対して敬意を抱いていた。カーギルを非上場企業にしておくことにそれほど強い思い入れがあるわけではなかった」と語る。

  ページ氏やマクミラン氏、シュミット氏ら一族のメンバーはコメントを控えた。

  7世代を経て創業者のウィリアム・カーギル氏との結び付きは薄れている。一族のメンバーで経営中枢にいる者はおらず、マクミラン氏ほど積極的に企業構築に取り組み、非上場を貫くことに固執している者もいない。

  クレメンテ氏は、食料価格の高騰が止まれば、カーギルは10年以内か、場合によってはそれより前にIPOに踏み切ると予想している。IPOが実施されれば、146年間にわたって非上場を貫いてきたカーギルは世界中を網羅する食料供給事業の手の内をもう少し明かすことになるかもしれない。

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