2011年2月11日金曜日

新興国から先進国への資金シフト継続、過剰流動性がUターン

[東京 10日 ロイター] 新興国から先進国への資金シフトが継続している。日米株は高値警戒感もあって利益確定売りが出ているが景気回復期待を背景に高値圏を維持。一方、新興国株はインフレ対応による金融引き締めを警戒し軟調な展開となっている。
 先進国の金利上昇傾向が強まっているが、米失業率は依然高過ぎるとしたバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の発言から、マーケットでは米量的緩和第2弾(QE2)がしばらく継続されるとの見方が多い。維持された過剰流動性はこれまで流入していた新興国から先進国へのUターンを強める見通しだ。

 <日米株は高値圏維持> 

 新興国株からの資金流出が続いている。中国の追加利上げの影響は限定的だったが、中国を除く主要なアジア株はいずれも前日に続き軟調な展開。南米でもブラジルのボベスパ株価指数は年初からの下落率が8.2%に達するなど年初からのパフォーマンスがさえない。

 高い成長率に支えられBRICsや他のアジア市場は、2008年の世界的金融危機以降も投資先として人気を集めていたが、最近の食料品などのインフレへの対応で金融引き締め姿勢を強めていることを懸念し、投資家が資金を引き揚げているためだ。

 トムソン・ロイター傘下の投信情報会社リッパーによると、2月2日までの1週間に新興国株式ファンドからの純資金流出額は41億ドルとなり過去最大を記録した。

 一方、日米など先進国経済は順調で株価も高値圏にある。米ダウと日経平均は高値警戒感もあって利益確定売りに押されているが、下げは小幅。前日の米市場では「フローで大きく利食いに来る向きは少なく、下落時の押し目買いは継続」(外資系証券トレーダー)とされ、新興国から先進国への資金シフトが継続しているとの声が出ていた。

 元メリルリンチの投資ストラテジスト、リチャード・バーンスタイン氏は8日、米国の中小企業株はBRICs株よりもはるかに高いリターンが見込めるとの見解を示した。2009年には米国経済や米国株に対してより悲観的だったバーンスタイン氏だがスタンスを一転、2年近く続く米国株の上昇は今後も続く余地があると述べた。「米経済は世界でも有数の改善をみせた。米小型株のグロースとバリューは、世界でも最大の成長ストーリーだ」という。

株式市場だけでなく債券市場でも米国回帰の傾向は強まっており、今週の四半期定例入札(クオータリー・リファンディング)の第2弾となった米10年債入札は、海外勢や大手機関投資家を含む間接入札者の比率が71.3%に達している。

 <バーナンキ証言で過剰流動性の維持予想>

 日米の株価を押し上げているのは景気回復期待であるが、実はそれを支えているのが新興国経済だ。

 1月の米ISM製造業景気指数が約7年ぶり高水準となるなど「米国の製造業は新興国経済の拡大を享受している」(T&Dアセットマネジメント・チーフエコノミストの神谷尚志氏)という。日本も新興国向けだけではなく、新興国向けが拡大し経済が堅調な米国向けにも輸出が増加するなどダブルメリットを享受、10年12月の輸出は前年比13%増と加速している。

 金融引き締め傾向が続き多少伸び率が鈍化したとしても、新興国経済は人口増などに支えられ成長が続くみられている。IMF(国際通貨基金)によると2011年の世界の経済成長率見通しは4.4%(2010年は5.0%)。先進国の2.5%(同3.0%)に対し新興市場国および途上国は6.5%(同7.1%)と新興国がけん引する構図は続く見通しだ。

 しかし、新興国にとってはインフレが悩みの種。インフレは新興国自体の内需拡大が主因とはいえ、先進国の金融緩和によって生み出された過剰流動性が商品市場などに入り込むことで加速させている面も大きい。その過剰流動性の大きな出どころである米量的緩和第2弾は、バーナンキ米FRB議長が9日、米国の景気回復は力強さを増している兆しが出ているものの、失業率は依然として高過ぎるとの認識を示したことで、市場ではしばらく続きそうだとの見方が強まっている。

 T&Dアセットマネジメントの神谷氏は「先進国のソブリン問題もいったん小康状態となっている。金融引き締めが続く新興国よりも金融緩和が維持されている先進国への投資を選択する方が無難だと投資家は判断している」と述べる。そのうえで、今月18─19日にパリで開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議で、先進国の金融緩和に対する新興国からの批判が強まるのかを注目しているという。

 <ドル円はしっかり、円債先物は小反発>
ドル/円は82円前半から82円半ばへとじりじり上昇。82円後半からの輸出企業の売りとの攻防になっている。米長期金利のレンジが切り上がったことがドル/円を押し上げているが、83円からは輸出企業の売りが厚みを増すため、上値には限度があるとみる声が多い。

 前日こそ米長期金利は低下したものの「レンジは上方シフトしている」(三菱東京UFJ銀行シニアアナリストの亀井純野氏)との見方は多い。米金利に比べたドル/円の出遅れ感から「上を攻めたい」(国内金融機関)として、ドルは輸出企業の売りが待ち構える82円後半に上値を伸ばしている。

 円債市場では、国債先物が小反発。米債高を受けて朝方は高寄りしたが、引けにかけて上げ幅を縮小した。市場では「中期ゾーンで売りが出ている。簿価で買いやすい来週の5年債入札に応札するため、銀行勢が調整的に売りを出しているのではないか」(外資系証券)との見方が出ているが、下値不安が広がるには至っていないという。

 バークレイズキャピタル証券の森田長太郎チーフストラテジストは「場合によって今週で金利がトップ形成となる可能性があり、少なくとも、来週頃までの時間帯でピークアウトするがい然性が高まったのではないか」と話している。

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