2010年7月3日土曜日

デヴィッド・ボウイ 「クリスタル・ジャパン」 京都・正伝寺

7月3日15時24分配信 産経新聞

 ■伝説のCMは「禅の宇宙」で生まれた

 京都市の中心部、中京区役所の前から市バスに乗って北に約25分。のどかな田園風景が広がる神光院前のバス停で降り、8月16日の「五山の送り火」では「舟形」が浮かぶ船山に向かって西に15分ほど歩くと正伝寺の山門が見える。

 うっそうとした参道を歩き、こぢんまりした本堂に足を踏み入れると、白い砂利を敷き詰めた枯れ山水の庭園があった。こんもりとしたサツキの木と比叡山を借景に取り入れたその庭園を眺めていると、まるで時が止まったかのようだ…。

 今から30年前の昭和55年、英のロック歌手が正伝寺で日本のテレビCMの撮影を行った。彼の名はデヴィッド・ボウイ。同年4月下旬から流れたCMには彼がこのCMのためだけに作曲した幻想的なメロディーの楽曲「クリスタル・ジャパン」が流れた。

 ボウイの神秘的で美しい容姿とシンセサイザーのメタリックなサウンドは茶の間に強烈なインパクトを与えた。宣伝用のポスターは盗まれ、CMを企画した企業には「放映時間を教えてほしい」といった問い合わせが殺到した。

 CMのコピーは「時代が変わればロックも変わる」。といっても音楽の話ではない。彼が華々しく登場したのは、宝酒造(本社・京都市)の基幹商品、宝焼酎「純」のCMだった。

 CM製作にかかわった社員は4人いたが、うち2人は他界し、1人は定年退職後、米国で事業を営んでいるという。というわけで残る1人に話を聞いた。当時、宣伝課長だった細見吉郎氏(73)。同社会長などを経て平成20年4月から京都市の副市長を務めている。彼が振り返る。

 「焼酎は労働者の酒というイメージを覆そうと、昭和52年3月に質の高い新製品『純』を発売しました」。しかし、初年度約70万ケースを売ったものの「その後、約200万ケースで頭打ちになったんです」。

 そこで「哲学的でカッコイイお酒」というイメージでの売り上げ増をめざし、CMにボウイを起用する挑戦に出た。「小さな広告代理店からの持ち込み企画でしたが、本当に出演してくれました」

 撮影は正伝寺のほか、お酒の神様で知られる松尾大社がある嵐山で行い、「ボタン(の花)編」、「庭編」、「ピアノ編」の3種類を作った。「東映からセットを借りました。完成したCMを見て、とても喜んでくれたのを覚えています」

 とはいえ「非常に繊細な人」だった。「事前に彼にCMのコンセプトを伝え、曲を作ってもらったのですが、歌がないインストゥルメンタルだったので私が怒ったら、彼、日本語が分からないはずなのに、異様な雰囲気を察してか、涙ぐんでいたのです…」

 ボウイ効果はすさまじかった。焼酎は若者の間で爆発的な人気を獲得。同社は昭和59年には業界初の缶入りチューハイも発売し、焼酎のシェアで現在も首位の座に君臨する。

 正伝寺の枯れ山水の庭を眺めていると、大成功の立役者はボウイというより、京都という街ではないかという気もする。

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